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カーク・ターナーの憂鬱
第18話 中の上の志
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楽し気に声を上げた。遠目で見ると熊にも見えなくない青年がそれに続くようにシャドーボクシングをしながら声を上げる。

「それはこちらのセリフだ。祖父様に泣きついても無駄だぞ!」

とうとうバーラト融和派も出張ってきたか。さすがにまずい事態だ。それにウォリスは、僕の雇い主のビジネスパートナーの孫だ。ああ、早く来てくれないだろうか。首都星ハイネセンならともかく、テルヌーゼンではバーラト系の融和派も多い。メープルヒル校でも同様で、声ばかりが大きい原理派が名目上の表番ではあったが、彼らは文字通り、ローザス家が身元引受人となり、編入した2人の亡命派に、数を頼んで突っかかって、文字通り粉砕された。

黒髪長身のジャスパーは、好みがはっきりしており、竹を割ったような性格だ。細かいことは気にしないし、整った顔立ちで、帝国風の所作も優雅。転入当初から女子たちの話題だった。その上、フライングボール部に入り、瞬く間にエース選手になった。女子たちの熱い視線はさらに増え、ごく一部の男性陣からも似たような視線を浴びている。

シャドーボクシングをしているのはベルティーニ。ジャスパーと同じく、ローザス家が身元引受人だ。ジャスパーと身長はあまり変わらないのに、熊のように見えるのは、彼の体躯が筋肉に覆われているからだ。ボクシング部に入ったベルティーニは人気のヘビー級の代表となり、年始の大会で優勝した。
それに、見た目に反して女子や後輩にはすごく優しい。見た目も相まって『森のくまさん』などと呼ばれ、一部の女子の熱い視線と、後輩の尊敬を集めている。僕から見ても二人は目立ちすぎたし、バーラト系の男子学生が動き出すのも仕方がなかった。

雇い主からは流血沙汰にはさせない。バーラト融和派が出張ってきたら一報を入れる。その代わりに、彼が運営するウーラント商会のレストランの支払いを彼が持つ。そういう契約だった。バーラト系に囲まれて育ってきた僕にとって、自分のルーツを確認しているようで帝国風の料理を食べるのは楽しかった。それに、時折、雇い主と共に同席するクリスティン嬢とユルゲン君から帝国の事を聞くのも新鮮だった。
そして内心だが、雇い主を始め、僕から見ても目立つジャスパーやベルティーニを英雄を見るかのような視線で見つめ、続けとばかりに励むユルゲン君に、変な親近感を感じていた。ユルゲン君も本当は彼らと話したいんだろうが、気が引けるのか、一番話しかけてくるのは僕だ。急に弟が出来たようで、うれしく思ってもいる。

ああ、雇い主から避けろと言われた事態に陥るまでのカウントダウンが僕の頭で始まっていた。現実逃避している間は、このカウントダウンが止まってくれないだろうか......。原理派のやつらは、まあ口だけだから、ジャスパーとベルティーニがいれば、負けることはない。あくまで学生同士の揉め事
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