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カーク・ターナーの憂鬱
第17話 値付け
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てね。その頃からバーラト系融和派が一気に増加した。この屋敷にある絵画のいくつかは、その時陛下に下賜頂いたものでもある」

そこまで話を聞くと、俺も歴史の『もし』を考えてしまう。彼が帝国に戻ったことで、同盟の国力は亡命者が流入したことで帝国に迫った物の、内部対立を解消できずにいる。彼の治世が長いものになっていれば、帝国との和平が成立し、エコニアでも緑化事業が行われていただろう。経済発展を続けるエコニアで、俺は井上商会に在籍したままキャリアを積んでいただろう。少なくとも、こんな風に会長と会うこともなかっただろう。

「そんな存在だからこそ、バーラト系融和派に属するウォーリック商会にとっては手に入れたい絵画だ。私個人の想いは除いても、亡命派にも応接室に飾るだけで友好を示せる。バーラト系原理派も、批判できない唯一の皇帝陛下でもある。さすがに帝国の芸術品が素晴らしいとは言え、ルドルフ大帝の肖像画を飾る気持ちは、私も持てないがね」

自分の冗談を気に入ったのか、会長は少し笑った。俺も正直笑ってしまった。建国の父ハイネセンを正義の英雄だとしたら、帝国を建国したルドルフ大帝は悪の権化と言うのが同盟の価値観だ。会長がもうすこし悪人面なら想定もできる。ただ、紳士然とした容貌の会長には、正直合わないだろう。

「冗談はあまり言わないからね。笑ってもらえて何よりだ」

そう言いながら会長はソファーに戻り、自分のティーカップにお代わりを注ぐ。それに続くようにソファーに座り、紅茶でのどを潤すとお代わりを求めた。会長の歴史講座、すでに晩年を意識している会長にとって、マンフレート2世陛下の事は、心の片隅にシミのように張り付く後悔なのだろう。
マンフレート2世陛下が暗殺されなかったら?そんな本が出版されても、俺は読まなかったと思う。でも、実際に接した会長の熱みたいなものも相まって、歴史の『もし』に思いを馳せずにはいられなかった。

「さて、隠居人の歴史講座はこの辺にして、本題に戻ろうか?ウォーリック商会としてオファーできるのはこの条件だ。ゆっくり確認してくれ。備考欄も併せて確認してほしい」

そう言いながら数枚の資料が応接セットのテーブルに置かれる。一枚目にはテルヌーゼン郊外にある農場の評価格と運転資金に使えるであろう現金。そして株式会社化した際の持ち株比率に関する事。2枚目以降は農場に導入されている設備、テルヌーゼン都心部の大き目の邸宅の詳細が記載されていた。

「会長、青写真しかない段階で、出資を募るのはどうなんでしょうか?軌道に乗ってからの方が、失礼にならないのでは......。とも思っていたのですが」

「設備投資がさほど必要ないプランなら、実際に動き出してから株式会社にするのも良いだろう。だが、君のプランはバーラト系融和派と亡命系融和派、双方の
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