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カーク・ターナーの憂鬱
第17話 値付け
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宇宙暦723年 帝国暦414年 9月末
惑星テルヌーゼン ウォーリック邸
カーク・ターナー

「あちらでは亡命帝と呼ばれるそうだが、陛下に思いを馳せる時、私は歴史に『もし』はない......。と思いつつも、どうしてもそれを考えてしまう。これは戴冠式直後だろうか?陛下には十分皇帝という地位が務まる能力はあった。隠された話だが、陛下はハイネセン記念大学に合格されていた。
もっとも取り巻きになるはずだった自称爵位持ちの子弟たちの多くが不合格でね。周囲の強引な勧めもあって亡命系の大学に進学されたが、ハイネセン記念大学で過ごされていればバーラト系にも太いパイプが出来た。バーラト系と亡命系の確執はもっと薄まっていただろう。
いや、あの時代ならバーラト原理派も負い目を感じていたはずだ。陛下の旗振りの下、亡命系が融和政策を行えば、現在の確執はもっと違ったものになっただろう」

視線は絵画に向けたまま、俺に解説するかのように会長は話をしている。確かに、亡命系の上層部を上層部足らしめているのは、疑似的な貴族制だ。融和政策に舵を取ることは、自分のバックボーンを否定する事に近しい。とは言え皇室に連なる者の指示に逆らうことは、それ自体が彼らの立つところの否定につながる。彼が帝国に戻ることなく亡命派の指導者になっていれば......。亡命派の同化政策はもっと進んでいただろうし、バーラト原理派も、そんな政局ではそこまで強硬な政策は唱えなかっただろう。

「それに、陛下の治世がもっと長いものなら、陛下を守り育てた亡命派の多くも、帝国に帰還し、要職についたはずだ。そうなれば、同盟への対応も友好的なものになっただろう。短期間では無理だろうが、20年も治世が続いていたら。同盟と帝国の和平が実現していたかもしれない。今頃私も妻と一緒に、帝都に観光旅行をしていたかもしれないな。帝国歌劇場でオペラを見ながら、取引先の侯爵様と談笑していたかもしれない」

そこまで言って、会長はため息をこぼした。帝国に戻り、マンフレート2世は在位一年足らずで暗殺されてしまう。彼の治世が20年続いていたら......。自国で育った皇子が帝国の皇帝となる。同盟市民達からすれば半分身内みたいなものだ。多少の譲歩も黙認しただろう。和平まで進めたかは分からないが、休戦は十分可能性はあった。だが会長の言う通り、歴史に『もし』はない。彼が暗殺された事で、後継者は対同盟強硬路線に戻らざるを得ず、両国の戦争は継続される事となった。

「今も思い返してしまう。帝国に戻るのを止めるべきだったのではないかとね。ご自分が帝国に戻るにあたって、すぐに亡命派を呼び寄せる事は難しいと考えた陛下は、所有されていた美術品の多くを、同盟の資産家に下賜する代わりに献金を求められたのだ。ご自分が帝国に戻ってからの亡命派の生活を心配され
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