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カーク・ターナーの憂鬱
第16話 値踏み
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合ったものを考えられる者は少ない。そうだなあ......。君の雇い主だった井上がそうだった。もう少し山っ気を出しても良い気もしたが、誠実で人を押しのけるのが苦手な彼には、入植に伴って商会を立ち上げるのは適性に合ったプランだった」

「そうですね。井上オーナーには良くして頂きました。入社の際は良い条件を出してくれたと嬉しく思いました。ただ、社員になってからは、お人好し過ぎて、商売が傾かないかと心配しました。後輩たちもそうでしたし、お客様もそうでした。商会をつぶすわけにはいかないと社員は励みましたし、お客様もなんだかんだと足を運んでくださいました。人徳と言うのはこういう事なのかと驚いた記憶があります」

井上オーナーの話を、会長は嬉しそうに聞いてくれた。彼にとって井上オーナーは弟子みたいなものだ。共通の知人でもあるし、話題としても最適だろう。その後も世間話をしばらく続けた。会長も話題は豊富だったし、イーセンブルク校の話は、入学経験者にしか語れない笑い話でもある。10時から始まった商談は、本題に入ることなく一時間余りが経過していた。

「すべてとは言わないが、ターナー君がどんな人物なのか感じることはできた。では、見せてもらっても良いかな?」

俺が了承すると、会長は応接セットの脇に置かれたイーゼルに近づき、ベルベットの覆いを慎重にめくった。

「うむ。このお姿は正に陛下だ。良く描けている」

絵画に視線を向けたまま、じっと佇む会長の雰囲気は、どこか声をかけにくいものがあった。永遠にこのままという事もないだろうし、商品をじっくり見てもらっていると思えば、急かす必要もない。気のすむまで待とうと、俺は心に決めた。

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