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カーク・ターナーの憂鬱
第15話 テルヌーゼン
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すがはウォーリック商会の本宅だ。整えられた庭園は貴族もかくやと言う感じだった。近づく大物との会見の機会に緊張は高まるかとも思ったが、思った以上に落ち着いていた。それもそうだろう。前世でもそれなりの修羅場はくぐったが、まあ、それを含めてもしんどい場面を、主役として経験したばかりだ。

ハイネセンのホテル・ユーフォニアに腰を落ち着けた俺を含めたウーラント一家は、そのまま併設されたレストランの一間を貸し切り、キャプテンを立会人にして俺とクリスティンの婚約の場とした。クリスティンは普段はお転婆な所があるのにやけにしおらしいし、ユルゲンは婚約の意味が解っていないんだろうが、うれし気で、上司兼義父になるウーラント卿は、ホッとしたの半分、娘を取られるむしゃくしゃ半分の、なんとも表現しがたい表情をしていた。

嬉し気な表情をしなければクリスティンとユルゲンが悲しむ。とは言え嬉し気にしすぎれば義父が気を悪くする。あんな修羅場はそうそうないだろう。そういう意味ではビジネスの場に飛び込む前に、良い経験が出来たのかもしれなかった。ウーラント家の嫡男であるユルゲンを守る意味で、俺はビジネスを立ち上げながら士官学校も目指す必要があるが、俺が士官学校を卒業して任官すれば、ユルゲンだけじゃなく、エコニアで生まれるであろう弟妹の徴兵リストの順位も下がる。
もともと陸戦隊を避ける意味で、航海士見習いになり、徴兵された際は艦船勤務になる様に画策していた。予備校に通うかは未定だが、士官学校へ入学するための支援も約束されており、ウーラント家には感謝しかなかった。縁のあるジャスパーやヴィットリオが同期になる可能性が高いことも、むしろ嬉しかった。

車は屋敷のロータリーで止まり、オルグレンがトランクからジュラルミンケースを取り出してから後部座席のドアを開けた。俺はジュラルミンケースを受け取り、先導するオルグレンに続く。見るからに重厚なドアをオルグレンが押し上げ、宅内にいざなう。

「本日はウォーリック商会の会長グレッグが対応いたします。応接間へどうぞ」

オルグレンに続くが、まあ内装には金がかかってる。ただ、変な成金趣味ではなく、シックにまとめられた内装には好感が持てた。そして所々に飾られた出元が帝国であろう絵画が、商談相手にウォーリック商会を選んだことが正解であることを示していた。あとはしくじらなければ大丈夫。自分に言い聞かせる俺の頭には、不思議と笑顔で送り出してくれたクリスティンの姿が浮かんでいた。

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