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狒々の霊
第三章

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 お参りをした後でお守りも買った、ついでにおみくじを引くと大吉だった。おみくじの結果にこれはいけると思い。
 そうして家に帰って家事をしてだった。
 学校部活も終えて帰宅してきた息子にご飯を食べさせて風呂にも入らせると夫が帰ってきた、夫は劇場の裏方の主任の一人だ。大柄で小さな目で逞しい身体をしている。黒髪がややむさ苦しい感じだ。
 夫は家に帰ると息子は何処だと聞いて妻が風呂と答えるとだった。
 すぐにこう言った。
「じゃあまず一回やるか」
「あの子上がってきたらどうするのよ」
「入ったばかりだろ」
「それはそうだけれど」
「一回位出来るな、ここでやるぞ」
 玄関でというのだ。
「いいな」
「ちょっと待って」
 実は晶も夫がそう言ってくると思った、それでだった。
 玄関からあがるとズボンのベルトを外そうとしている夫に言った。
「ちょっとプレゼントがあるのよ」
「プレゼント?」
「これね」 
 その住吉大社で買ったお守りを出して言った。
「これ首にかけて」
「お守りかよ」
「そう、嫌かしら」
「かみさんのくれるものならな」
 夫は妻に特に表情を変えずに返した。
「何でもいいさ」
「それじゃあね」
「ああ、付けるな」
 こう言ってだった。
 夫は妻からそのお守りを受け取った、そしてだった。
 それを首にかけるとだった、すぐに。
 夫は雷に打たれたみたいになって動きを止めた、そうしてその身体から。
 茶色の毛のゴリラの様な大きさの猿が出て来た、顔はニホンザルに似ているがより人間臭い。そして身体が透けていた。
 その猿が慌てた顔でこう言うのだった。
「何やこれは」
「そういうあんたこそ何よ」
「わい?わいは千早におった狒々の幽霊や」
 こう晶に答えた。
「この旦那さんが千早に山登りに行った時に憑いたんや」
「そういえばそんなこともあったわね」
 晶も言われてこのことを思い出した。
「そしてその時からやたらしてくる様になったわね」
「それだけやったんや」
「それだけっていうけれどうちの旦那に憑いてって」
「安心せえ、確かにわしは狒々でや」
 狒々は晶に真剣な顔で答えた。
「女好きやが」
「あんたが私とじゃないの」
「何でこの身体で出来るんや」
 もっと言えば身体がなかった。
「わしは三年位前にとっくに天寿全うしてるわ」
「そうだったの」
「しかしまだまだお姉ちゃんが好きでな」
「成仏してなかったの」
「それでどうにかしてと思ってたら」
 三年そう思っていたらというのだ。
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