第七十話
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「それは違ぇと思うがなぁ」
政宗様が軽く笑って杯を置く。一体何が違うって言うんだろう。
「前に小十郎が珍しく酔って零したことがあんだがな、『姉上は小十郎の前では決して涙を見せようとしない』って言ってたんだよ。
どうにもその意味が分からなくて聞いてみたんだが、わざと強く振舞って、良い姉でいようとしているように見える時があるそうだ」
政宗様の言葉に、酒を口に運ぼうとする私の手が止まる。
「全く泣かねぇってわけでもないとは思うが……
まぁ、俺も泣かせたクチだから言えねぇが、お前の方がむしろ小十郎よりも不器用だと思うぜ? 泣くってのはな。
……それが分かってるから、余計に支えたいんだろうよ。もうちっと、分かりやすく頼ってやっても良いんじゃねぇか?」
「……無理ですよ。いいお姉ちゃんでないと、私がいられないんです。
今までそうやって生きて来ちゃったんですもん。そう簡単には止められませんよ」
強くて元気で明るくて……いつも笑ってるそんなお姉ちゃんでいなければならない。
小十郎のことを思っているのは確かだけど、でもそれだって百パーセント小十郎の為かと言われるとそうじゃない。
その半分は自分の為、そういうお姉ちゃんでいなければ自分がいられなかったから。
いや違う、お姉ちゃんってだけじゃない。そういう“私”でなければ、とてもいられなかった……それだけだ。
政宗様が立ち上がって私の側に座る。そっと私を自分の胸に抱いて、私が小十郎にするように優しく髪を撫でてきた。
「長いこと眠ってる時にな、お前が泣いてる夢を見た。一人で痛みを堪えて、必死で押し殺すように泣いてる夢をな。
……一人くらい、泣き場所になれる奴がいてもいいだろ? 俺には小十郎がいるが、お前は小十郎を隣に置くつもりはねぇんだろうが。
なら、その隣にいる俺で良いじゃねぇか。泣きたい時は頼って来いよ、小十郎には黙っててやるからよ」
「三人で仲良く役割をローテーションですか。……参ったなぁ、そんなこと言われたことがないから戸惑っちゃいますよ」
軽く言ってるけど、本当は嬉しかった。今まで、こんなことを私に言ってくれる人はいなかった。
ずっと自分が強くなければと、必死に虚勢を張って生きてきた。
強くて明るくて元気で頼れる私は、外向きの仮面に過ぎない。本当の私じゃない。
本当の私なんて、この世界では三十年、生まれ変わる前は二十二年生きたけど結局分からなかった。
どんな私も結局は私、って言うけど、私はそんなに強くない。誰かを支えて受け入れられるほどに強くは……。
急に目の奥が熱くなって、ずっと溜まっていた涙が零れそうになる。
それでも零したくなくて、必死に堪えていれば、政宗様が私の額に優しく口付けをしてきた。
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