第三章
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「それはそれでな」
「いいんだ」
「犬にとって色がないことが普通なんだ」
「そうなんだ」
「最初からそうだからな」
そうした目だからだというのだ。
「別に何ともないんだ」
「最初からそうだったら」
「ああ、そしてな」
「そして?」
「色がなくても空も花火も楽しめるんだろう」
犬としてはというのだ。
「そうなんだろうな」
「犬は犬で」
「色がわからないならわからないでな」
それでというのだ。
「そうだろうな」
「そんなものかな」
「そこはそれぞれなんでしょうね」
母も言ってきた。
「やっぱり」
「何かよくわからないな」
「わからなくてもね」
「それでもなんだ」
「そういうことなんでしょうね」
「最初からそうなら」
「もうそれがそのままね」
色がわからないのならというのだ。
「普通のことになるよ」
「そうなんだね」
「お母さんもお父さんも知らないけれど昔はテレビは白黒だったし」
昭和三十年代のことだ。
「それしかなかったら」
「白黒が普通になるんだ」
「それと同じでね」
「ソラには白黒が普通なんだね」
「ワンちゃんはね」
「ソラ、そうなのか?」
良は両親の言葉がどうしてもわからずソラに尋ねた、彼自身に。
「お前白黒のままでいいか?それで花火見て楽しいか?」
「・・・・・・・・・」
ソラは答えない、その代わりにだった。
ずっと空を見ていた、良はそれが返事だと理解して両親に話した。
「ソラはそれでいいみたいだよ」
「白黒でも空は空だしな」
「花火は花火だしね」
「だったらな」
「それでいいのよ」
「そうなんだね、じゃあソラ今日は花火が終わるまでずっとここにいような」
「ワンッ」
ソラは良の今の言葉には顔を向けて鳴いて応えた、そうしてだった。
この日は実際に花火を最後まで見た、その次の年もソラは花火大会の時はずっと花火を見た。花火の時以外にもだ。
ソラはよく空を見上げた、良はその彼を見てそれがソラの好きなものだと思った。そして自分も空を見た。
そうしてだ、両親に言った。
「白黒でも色があっても」
「空は空だな」
「同じね」
「それで見ていると」
そうすると、というのだ。
「やっぱりいいね」
「そうだな、だからソラもいつも見ているんだな」
「あんたがそう名付けた位だしね」
「そうだね、これからもソラと一緒に空を見るよ」
こう言ってだった。
良も空を見続けた。その空は青空も夕焼けも朝日も花火も雨でさえも全ていいものに思える様になった。ソラを共に見るそれは。
空を見上げる犬 完
2020・7・27
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