第12話 苦渋の決断
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宇宙暦723年 帝国暦414年 8月末
酒場ドラクール カウンター席
キャプテン佐三
商談をしていた個室から、ウーラント卿に促されてカウンター席に移動した。亡命してからのビジネスプランをターナーがプレゼンした時は、正直そこまで踏み込んで失礼にならないか心配した。結果としてウーラント卿の決断を促すことになったが、個室を出てカウンターに向かうウーラント卿の後ろ姿には、どこか思いつめた雰囲気がある。
「ジンバックを二杯頼む」
カウンターに座ったウーラント卿がマスターにオーダーをする。はぁ、よりによってジンバックか。カクテル言葉は『正しい心』。思いつめた表情にこのカクテル言葉。確かにな、同盟に亡命してからのビジネスプランは用意されても、実際にそれを実現する人材が必要だ。クリスティン嬢は確か13歳。ユルゲン坊ちゃんは10歳。帝国でそれなりに教育を受けていたとしても頭数に入れるのは厳しい。
そしてウーラント卿は初老とは言わないが40代半ばだ。ユルゲン坊ちゃんが成人する10年後まで、一人で亡命先でビジネスを立ち上げなければならない。そもそも宮仕えの経験はあっても、ビジネスに関わった経験はないだろう。ターナー、俺になんとか仕事を取らせたかったんだろうが、さすがに能力を見せすぎたかもしれないぞ。
「亡命の件はよろしく頼む。それにしてもターナー君は優秀だな。昨日は子供たちを助けても貰った。フェザーンに来た時は不安もあったが、良き縁に恵まれたようだ」
「ウーラント卿の言葉を聞けば、あいつも喜びましょう」
そんな会話をしながら、グラスを合わせる。しばらく無言の時間が流れた後、ウーラント卿は無言で俺に頭を下げた。
「そのような事はおやめください」
「いや、これから話す事を考えれば、頭を下げるのが筋だ」
肩に手を添えて、頭を上げる様に促す。ウーラント卿は手を添えてもしばらく頭を下げたままだった。商船乗りとしての格を上げるために亡命業務を担う準備をした。今回も半分はターナーの存在があってお任せ頂けたとも言える。ただなあ、井上から預かったターナーをいきなり手放すのはそもそも不義理だ。それにうちの航海士たちもなんやかんやターナーを可愛がっている。機関長が意気消沈する様子が目に浮かんだ。
「同盟の若者がどの程度優秀なのかは分からん。だが、ターナー君は私の目から見てもかなり優秀だ。子供たちとも不思議な縁があるし、クリスティンも気に入っている様だ。同盟でウーラント家が根を張る道は確かに見えた。だが私だけで歩き切るのは無理がある。それに万が一の時のことも考えねばならん。クリスティンの相手として、優秀で信頼できる者を置いておきたい。帝国なら寄り親に後見を頼めただろうが、同盟では頼れる存在もない」
「確かに良くできたプランです。成功
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