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カーク・ターナーの憂鬱
第11話 緊張の商談
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宇宙暦723年 帝国暦414年 8月末
酒場ドラクール 防音個室
カーク・ターナー

「船長、見間違いじゃなければ、昨日助けた貴族子弟がいるんだけど」

「お前さんは縁に恵まれてるんだなあ」

亡命案件の商談になるため、キャプテンについてきた訳だが、商談相手のウーラント家が指定した個室に向かうと、どうみても昨日ホテル・シャングリラに送り届けた貴族の姉弟が席についている。

「別に非難されることはしてないんだ。堂々としとけ」

ウーラント家の当主であろう中年の男性に、船長と俺は名乗り、頭を下げて控える。亡命者相手におかしな気もするが、フェザーンはあくまで帝国の自治領。同盟領域に入らない限り、身分に一定の配慮をするのがマナーだ。亡命派の領域に行く判断をすれば、そのまま爵位がまかり通る価値観の社会に行く訳で、わざわざ同盟では皆平民だと、敢えて波風を立てる必要はない。

「グスタフ・フォン・ウーラントだ。今日はよろしく頼む」

「長女のクリスティンと申します」

「嫡男のユルゲンと申します」

ご当主の名乗りに続いて、姉弟もこの場では名乗ってくれた。個室に入り末席に着くが、距離が近くなって再確認したけど、やっぱり昨日の姉弟だ。金色の手入れの行き届いた髪に、青い瞳。貴族って感じの容姿だが、姉の方は昨日とは違って好奇心に満ちた視線を向けてくる一方、弟の方はさっきはさりげなく手を振って来るし、しまいには右こぶしを差し出す素振をしてきた。さすがに察したのか、姉のクリスティンが自然に手を押さえて席に着く。ありがとうクリスティン。

『情けは人のためならず』とはよく言ったものだ。前世でも助けになれるなら援助は喜んでしていたし、それを恩に着せることは絶対にしなかった。援助したことや金を融通した事は翌日には忘れる。こちらが恩に着せないからこそ、相手も出来る限り恩を返そうと思うものだ。
とは言え、若気の至りではないが、昨日の一件は自分でも少しかっこつけすぎた感覚があった。異国の地でちょっとした事件のちょっとした思い出話になれば......。くらいの感覚だったのに翌日に再会となるとどうも様にならない。クリスティンとユルゲンが俺に笑顔を向けてくるが、気恥しかった。

「ウーラント卿はご承知かもしれませんが、ここは商船乗りにとって聖地みたいなものです。ここでご縁を得た方にドリンクを奢ると幸運に恵まれる......なんて話もございます。失礼ながら私の盃を受けて頂けますか?」

「もちろんだ。キャプテンは船を持たれて初めてのフェザーンだと聞く。そのような記憶に残る節目での配慮だ。喜んで受けさせてもらおう。ただ、貰ってばかりでも心苦しい。ウーラント家の未来に幸がある様に、2杯目は嫡男ユルゲンから、盃をお返ししたい」

そんなやり取りから商
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