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カーク・ターナーの憂鬱
第9話 商売の都
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案件の話になるし、そうでなくても酒場ドラクールに新人を連れていくのが、船長の流儀みたいになっていてな。お前が行く予定の商科大を作ったのはオヒギンス氏だが、彼の生涯の盟友だったのがバランタイン・カウフ氏だ。そのカウフ氏が起死回生の商機を掴んだのが酒場ドラクールなんだ。縁起を担いで新人を船長がドラクールに連れて行くのが、流儀みたいになっているのさ」

「同盟系の私たちはそもそも候補じゃないですが、『今年のシンドバット賞』を何度も受賞した方ですよね?縁起の良い酒場に連れてって頂けるなんて嬉しいです。船長、ご馳走様です!」

「ご馳走様の時だけは二段階くらい良い挨拶になるな。まぁ、年相応で結構だ。俺も新人の時に船長にご馳走して貰ったんだ。俺が独立して最初にドラクールに連れていくのがターナーだからな。まぁ、期待してくれ」

そう言って船長は通信を終えた。下船して軌道エレベーターで地上に降りるまでは、一緒に行動する予定だから確認の意味もあったんだろう。カウフ氏とオヒギンス氏に関しては、好みが別れる部分かもしれない。前世で言う西郷さんと大久保さんの関係だろうか?

バランタイン・カウフは連帯保証人になっていたオヒギンス氏を破産から救うために保険金目的の自殺を考えるまで追い詰められた後、酒場ドラクールで掴んだ商機をきっかけに商売の面では大成功を収めた。だが、現在では商才までは引き継がなかった子孫たちが喰い潰してしまいカウフ財閥は実質一代で泡沫のように消えつつある。

一方で、終生カウフの理解者であり、支援者でもあったオヒギンス氏は、カウフのお陰で手に入った予想外の収入で、フェザーン商科大を設立した。商業立国のフェザーンに必要な独立商人・経済学者・経済官僚を今でも輩出し続けていることを考えれば、俺はカウフよりオヒギンス氏にあやかりたい。もっとも時間があれば商科大の図書館に行きたいのが本音だ。ただ、大して時間もない以上、商科大にあるというオヒギンス氏の肖像画くらいは見ておきたかった。

それに、そんな内心を上機嫌でご馳走するつもりでいる雇い主に漏らす程、俺は世間知らずじゃない。カウフ氏の成功に彩られた半生は、確かに商船乗りとって輝かしいものだ。カウフ氏に習って、後進達が成功しますように!という想いを込めて先輩方がドラクールに連れていく以上、そこには善意しかないんだからわざわざ水を差す様なことを言う方が、むしろ野暮ってものさ。

フェザーンの名所マップをタブレットにダウンロードし終えたのを確認して、俺は割り当てられた自室を後にした。シロンでは勉学重視の日々だったし、自由に観光できるのはこれが初めてだ。そういえばジャスパーは元気だろうか?亡命系では水の代わりにワインを飲むらしいが、飲んだくれていれば士官学校への合格はさすがに厳しいだろう。丁度良い。オヒギ
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