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カーク・ターナーの憂鬱
第8話 雇用主と宇宙
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宇宙暦723年 帝国暦414年 6月末
惑星シロン 静止軌道 エンブレム号
カーク・ターナー

「やっと会えたな、ターナー君。キャプテン佐三だ。エンブレム号への乗船を歓迎する」
「キャプテン佐三、カーク・ターナーです。諸々のご手配ありがとうございます」

ジャスパーに見送られてシャトルに乗り込んだ俺は、静止軌道上に打ち上げられ、待機していたエンブレム号に乗り込んでいた。航海士見習いとなる俺の雇い主、キャプテン佐三と涙の......。という訳ではないが、対面を果たしている。彼の氏名は井上オーナー同様、姓が先に来るE式だ。前世で言うと、彼のフルネームは出光佐三、乗船するのはエンブレム号、これも和訳の仕方によっては日章号だ。

井上オーナーがつないでくれた縁だが、少なくとも名前だけなら成功につながる気がする。船長は某巨大石油会社の創業者、乗船するのも日章丸とほぼ同じ名前。別にキャプテン佐三が大儲けしてもボーナスがもらえる位だろう。ただ、どんな組織であれ、大きな成果を出せれば組織全体が前向きに進むし、ポジションも増える。航海士見習いとして歩みを始めるには、良い職場に当たったのかもしれなかった。井上オーナー、感謝です。

「エンブレム号には、首都星系産の機械部品とシロン産の嗜好品を積み込んだ。これからフェザーンへ向かう。亡命関連の案件があるかは、行ってみないと分からない。ただ、貴族子弟の対応は君に任せることになる。大丈夫そうか?」

「はい。短期間ですが学費を出していただきました。マナーに関しては『優』評価を頂きました。皇族でもなければ無難に対応できるだろうと、評価も頂いております」

「それは何より。この船の亡命案件の主任ってとこだね。井上からも学習意欲が高いって聞いてる。君を雇ったのはあくまで亡命子弟の対応のためだ。航海士としてもキャリアを積めるように、しっかり励むようにな」

俺の肩をポンポンっと叩きながら、キャプテン佐三が笑顔を向けてくる。そんなこと言われるまでもない。一日も早く航海士になって、仕送りを増やすのが俺の直近の目標だからね。割り当てられた部屋は、思った以上に良い部屋だった。
自動化が進んだこの時代の商船は少人数での運用が可能だ。亡命案件の対応もするからエンブレム号も客室を用意しているが、わざわざ航海士見習いの為に、航海士用からグレードを落とした部屋を用意する方がむしろ無駄だ。そういう訳で分不相応な航海士用の部屋を俺も貰えるという訳だ。

「まあ、まずは機関部門からだな」

割り当てられた部屋の衣装棚にカバンに納まっていた私服をしまいながら俺はつぶやいた。航宙分野に関しては艦橋に船長・副長・航海長がいる以上、俺の出る幕はない。一方で機関部門は自動化が進んでいるとはいえ、メンテナンスを含めて必要な作業はそれな
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