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カーク・ターナーの憂鬱
第7話 友人
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いた。今のところ、防衛戦争は優位に進んでいる。ただ、帝国の侵攻を元から断てない以上、いずれ亡命系へも徴兵要項が拡大される。どうせ従軍するなら、アホな上官に使い潰されないように士官学校を出て、最低限の立場を確保した方がマシだと......。身も蓋もないやつだ。思い出しても笑える。

シャトルが定位置に着いたんだろう。轟音を上げながら視界の片隅にあったシャトルが加速を始める。

「取りあえず士官学校を卒業して、10年勤めれば良い。そうすりゃ年金支給の対象になる。どんなに資産持ちでも収入がないのは精神的に良くないしな。ジャスパーの容姿なら役者も務まるだろう。別に自分のバックボーンを全否定しなくても良いんだ。帝国風のレストランをハイネセンの一等地に出すのも面白いかもな」

あいつの発想は国名宜しく自由だった。俺が役者?そんなこと考えたこともなかった。思い出しても笑っちまう。

「それによ。士官学校の道を検討できるだけで、自由惑星同盟のお貴族様なんだぜ」

あれは、いたずらで奴が好きなオレンジジュースにウォッカを混ぜた時だったか。酔いつぶれたあいつも面白かったが、酔いでもしないとあんな話はしなかっただろう。あいつが8歳で働き始めた勤め先の兄貴分の話をもらした。ターナー自身も優秀だが、その兄貴分も十分優秀と言えるレベルだろう。
そんな彼が、経済的に厳しい辺境星域生まれと言うだけで、世に出るために二等兵として入隊する道しかなかった。そして自分に先駆けて星を飛びだして行った兄貴分に置いて行かれたと引け目に感じていることも吐露していた。

「余計なことを言ったな。忘れてくれればありがたい」

翌日の朝食の場で、照れくさそうにあいつは声をかけてきた。でも、あれが辺境出身者の本音なんだろう。轟音を上げながら成層圏を突き抜けていくシャトルに視線を向ける。ああ、あいつも兄貴分のシャトルを見送りながらこんな思いを感じたんだろうか。

「亡命派幹部の庶子、お前からしたら良い生まれかもしれない。でもな、俺もあの時のお前と一緒だ。おいて行かれた気持ちだぜ。いつか出世して、お前の商会にでかい案件を発注してやるよ。何が五分だ。俺を置いて行ったんだからな。これ位のお返しは当然だろ」

見えなくなるシャトルを横目に、俺はイーセンブルク校へ歩みを進める。一刻も早くお返しするためにも、士官学校に少しでも良い席次で入学しないとな。押し付けられた進路も、今では前向きに進めそうな気がした。

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