第6話 イーセンブルク校
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者が訪れる。そして大抵爵位持ちの貴族の子弟と何かしら揉め事が起こるのがマナー講師の悩みの種でもある。問題が起こるなら亡命系以外の生徒の受け入れを止めてしまえば良いとも思うのだが、亡命派の置かれた政治的な事情から、そうも言っていられない。
と言うのも、同盟に帝国からの亡命者が増えることは、すなわち我々亡命派の増加につながる。本来なら亡命者の受け入れ対応に全面的に協力すべきなのだろう。ただ、亡命初期にいわゆるバーラト系の強硬派が暴走した事。仲介窓口となるフェザーンが商売敵であること。そして何より、シロンを始めとした亡命系の商会は同盟内への販路を維持するので精いっぱいで、フェザーンを仲介した帝国との貿易に割ける輸送船が捻出できていない。
結果として亡命者の受け入れに関しては、その多くがフェザーン系とバーラト系の商船が担っている。ならせめて人材面での協力をしても良いのだろうが、そもそもフェザーン系はバイリンガルなので助力を必要とせず、バーラト系にはよく言って冷戦という関係から、亡命系の人材は就職先として希望しなかった。
とは言え、亡命系が全く寄与しないと言うのは、メンツの面でも道理の面でもあり得ないことだ。なので、亡命受け入れに関わる人材限定で、帝国でのマナーを講義している教育機関が短期入校を受け入れていると言うのが妥協点だった。
帝国風の階級社会で育ってきた子供たちにとって、短期入学者は異物でしかないし、同盟風の社会で育った子供にとって、短期間とは言え育ってきた環境とは全く違う環境に置かれる。揉め事が起こるのはむしろ当然だろう。
最も、亡命派の子供たちにもメリットはある。一部を除けば、将来、同盟の価値観で育った人材と接点を持つことになるのだ。その際に、事前にそういうことを認識しているかで、だいぶ関係性は変わる。亡命系の子弟が同盟軍の士官学校に入学し始めた時代には、決闘騒ぎも起こっていたと聞く。
「色々とわきまえてくれている子なら良いけど、13歳じゃ思春期真っただ中だものねえ」
待合室が近づき、私は覚悟を決めるように気持ちを切り替えた。部屋の中心に置いてあるソファーには、オレンジの髪とエメラルドの瞳をもった少年が、タブレットを片手に深く腰掛けて、寛いでいるのが目に入った。良くも悪くも存在感がある。揉め事が起こる将来を確信した私は、不躾とはわかりつつも小さくため息をついた。
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