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カーク・ターナーの憂鬱
第6話 イーセンブルク校
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宇宙暦723年 帝国暦414年 3月末
惑星シロン 宇宙港
カーク・ターナー

「ふう、やっとこさ到着か。まあ、同盟流のマナー講座の予習は終わったし、暇ではなかったけど船室で缶詰だったからなぁ」

宇宙港で入星手続きを終え、エントランスを出た所で、俺は船室生活の閉塞感を吹き飛ばすかのように大きく伸びをした。人目がなければラジオ体操の第一でもしたかもしれない。着替えの入った13歳の身体には少し大きめのショルダーバックを抱えて、タクシー乗り場まで向かう。

これが所謂バーラト系の惑星なら、自動運転対応のレンタカーシステムがあるらしいが、亡命系の惑星では何でもかんでも自動化するのは下賤という価値観の下、インフラ整備が行われているらしい。船内で学んだ予備知識だが、銀河帝国の建国者であるルドルフ大帝の

『自動化できる事を敢えて人力で行う事がむしろ貴族的』

と言う価値観の下、詳細まではわからないが、帝室が置かれている新無憂宮は文字通り星間国家が成立しているこの時代ですら、人力で運営されているらしい。それをバーラト風の価値観の下、愚かな無駄だとか、圧政の象徴みたいに考える連中の気持ちも判らないではない。
ただ、貴族社会にも当然落伍者はいるわけで、新無憂宮のような大規模施設を人力で運営するにはかなりの雇用が生まれる。皇帝の住まいに平民を置くようなことはないだろう。貴族階級に属する者限定のセーフティネットのような役割を果たしているのかもしれなかった。

「おっちゃん、イーセンブルク校までよろしく!」

「あいよ。お若いのに帝国語が堪能だね。大したもんだ」

タクシーにバックを抱えながら乗り込み、運転手のおっちゃんに行き先を告げる。収容所仕込みの帝国語はちゃんと通じるようだ。若しくは、宇宙港を起点にするタクシー運転手たちにとって半分ご挨拶なのかもしれなかった。
俺が着ている服は安物とは言え完全に同盟風だが、シロンを始めとした亡命系の惑星では、帝国風の服を着るのがスタンダードだ。おっちゃんからすれば、俺が行き先を告げた時点で、大体の事情を理解できたのだろう。

そして、タクシーを始めとした日常生活を支えるサービスを自動化しないのも、亡命系ならではの理由がある。亡命の際に多額の資産を持ち込み、シロンを中心に同盟ではそれまで乏しかった貴族風の嗜好品の生産で経済力をつけた亡命系だが、彼らの社会はある意味、完全な階級社会だ。
亡命するにあたって、当然庭師などの専門職を連れてきた者もいたが、専門職の枠は当然限られる。そこで敢えて自動化を進めず、就職先を担保する政策でもあったりする。実際増加傾向の亡命者だが、平民などの高等教育を受けていない層は、自動化の進んだ星系では就職が困難だ。

意図通りなのかは不明だが、亡命後もある意味貴族的価値観
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