第5話 出立
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母が留守のタイミングを狙ってきたのも、もしかしたらあの従士の配慮なのかもしれなかった。コルネリアス1世の大親征を同盟が跳ね返して以来、政争に敗れた帝国貴族を中心に亡命者は増えている。
貴族にとって血は可能性だ。政争に敗れたとはいえ、大逆罪でもなければ族滅される事はほとんどない。持ち運び可能な資産を持たせ、亡命させるのが主流だ。その最たるものが、亡命帝と呼称されるマンフリート2世だろう。
とは言え、コルネリアス1世の親征は、当時の同盟軍に大きな被害をもたらした。亡命者たちが帝国から持ち出した資産の一部も、同盟の軍備増強に用いられている。とは言え、バーラト系の強硬派が、持ちこまれた資産を絞りとるかのような動きをしたのも確かだ。結果、自衛のために亡命系はシロンを中心に入植し、同化することなく、帝国領内のような疑似貴族制を維持して体制を整えた。
敵国である帝国の、ましてや貴族ともなれば、亡命を受け入れてやるのだから全財産を没収しろと、短絡的に考えた当時の同盟強硬派の気持ちもわからなくはない。彼らのルーツであるハイネセンを始めとした人々は流刑惑星で農奴として強制労働に従事していた。建国の父たちの苦渋を返さんとする気持ちもわかる。だが、そのせいで国内に派閥抗争を呼び込んでしまったとしたら、その責任はバーラト系と亡命系のどちらに帰するのだろうか?
「いっそすべて捨ててしまえれば......。などと言うのは贅沢だろうな」
先ほどの従者を乗せた本家の地上車が遠ざかっていくのを窓から見ながら、俺は内心を吐露していた。
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