第5話 出立
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ブルク家が軍務で貢献できないとなると外聞が悪うございます。フリードリッヒ様には、亡命系の名門に相応しい作法を身に着けた上で、士官学校への進学をするようにとの旨、大旦那様がお指図されました」
「間違るな。俺の名はフレデリックだ。それも今更の話だな。侍女として勤めていた母に手を出した挙句、あの鬼婆がいびり出すのを見て見ぬふりをしておいて、よくも指図などでできたものだ」
怒りを禁じえない俺の視線の先には、本家であるオルテンブルク家の従者が形式だけは恭しく控えている。彼らにとって主家は絶対的な存在だ。当然、その血を引いている俺にも形式的には敬意を払う。そうしなければ彼らの価値観にそぐわないからだ。ただ、内心では大旦那様のお指図に逆らう不届き者とでも思っているだろう。
亡命系とは言え、ここは自由惑星同盟だ。帝国での政争の落伍者たちが貴族ごっこをする分には、俺にとっては関係ない話だ。貴族宜しく侍女に手を出し、子まで産ませておきながら、派閥内の面子の為に後継ぎは本妻との子にしなければならない。
そんな事情から、本妻が母をいびるのを見て見ぬふりをし、やっとこさ嫡男をなしたかと思えば戦死した父は、俺からすれば因果応報としか思わない。ただ、貴族ごっこのゴミみたいな脚本の片隅に、俺が配役されるのはごめんだった。
「かしこまりました。私はあくまで大旦那様のお指図をお伝えに上がっただけでございます。お指図にフレデリック様がどうしても従わぬとの仰せであれば、その旨、ご報告するまでです。ただ、本当によろしいのですね?」
痛い所をついてきやがる。オルテンブルク家の分家も分家のジャスパー家に所属する以上、奴らの貴族ごっこの有り様はよく知っている。フェザーンが成立して嗜好品メインで稼いでいた亡命系はかなりの打撃を受けた。そしてそれ以降、団結を強めてもいる。
俺の個人口座には、自分だけならいくらでも好きに身を立てる原資がある。ただ、オルテンブルク家の指示に逆らったとなれば、ジャスパー家は亡命系の中ではもう生きていけないだろう。貴族ごっこの中で生きてきた祖父母を、俺のわがままで全く違う世界に叩き込む決断は、俺には出来なかった。
「わかった。指図通りマナーも身に着けるし、士官学校を目指そう。その代わり、俺に二度と関わるな。お前達が敬愛する大旦那様の面目が立つように最大限努めよう。その代わり、その邪魔をするな。俺はお前たちのように貴族ごっこに興じる趣味はないからな」
「承知いたしました。大旦那様には家名を汚さぬよう精いっぱい務める為、静かに見守って頂きたいとでも申し上げましょう。私としても、頂いたお役目が不本意な形にならず、安心いたしました。では失礼いたします」
本家の従士は、形だけは恭しく一礼をしてから、部屋を辞していった。亡命系の会合があり、祖父
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