第4話 オーナーの悩み
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ここで同盟内のバーラト系と亡命系の確執が問題となる。シロンを中心とした亡命系はフェザーンの成立で紅茶をはじめとした嗜好品の分野で打撃を受けていた。その上、彼らが保護していたヘルムート1世の庶子であったマンフレート2世を帝国に戻すという判断を下したのもバーラト系だ。
亡命系も当初は諸手を挙げて賛成した物の、マンフレート2世が在位1年で暗殺されてしまうと、自分たちが保護していた帝室の血を使い潰されたと激怒した。それ以降、バーラト系と亡命系は冷戦状態なわけだ。
そして彼の親友はもともとバーラト系の資本に属する以上、本来なら帝国語が堪能な若年層を同盟内で一番抱えている亡命系からは、当然協力を得られない。フェザーン人は基本的に帝国語と同盟語のバイリンガルではあるが、自分の子弟をわざわざ独立したての零細外国資本に任せる理由もなかった。
「優秀なあいつが、同じ案件でメールしてくるんだ。よっぽどの事なんだろうが」
帝国語が堪能で、気難しい貴族にもそれなりの応対が出来る。貴族の坊ちゃん・お嬢ちゃんの面倒もそつなくこなす。そんな人材は手元に一人しかいなかった。
「カークを出すのは正直痛い。ただ、井上商会が立ち上げられたのは奴のお陰もある。カークを抱え込んで井上商会が大きくなっても、あいつがしくじったら正直、心から喜べねえしなあ」
渋々ではあったが、カークに航海士見習いの話をすることを井上は決めた。
「それになあ。収容所が完工しちまったら、重機のバイトも無くなっちまう。あいつがせめて15歳だったらなぁ」
渋々の決断を自分に納得させるかのようにぼやいた。両親を除いて、ターナー家の状況を一番理解している彼は、カークの母親が妊娠したことも知っていた。新しい命が生まれる以上、1ディナールでもカークは稼ぎたいだろう。そして残念な事にエコニアにいる限り、しばらくは井上商会以外の稼ぎ口を見つけるのは難しいだろう。
もし15歳に達していてマスジットの陣頭指揮を任せる形にできれば、かなり待遇を上げることもできた。ただ、さすが13歳だ。いくら何でも若すぎるし、嫉妬もかなりされるだろう。2年待つという手も無くはなかったが、業務がさほど変わらないのに待遇に差がありすぎれば、それこそ嫉妬の対象になる。
「まあ、納まる所に納まったのかね」
ため息をつきながら親友からのメールに、もう一人の候補に話をしてみる旨を返信し、オーナー室を後にする。兄貴分だったトーマスが、軍に志願してエコニアを後にして以来、どこか生き急いでいる雰囲気をだしているカーク。当然この話を断るはずもない事を理解していた彼は、家に着くまで10歩おきにため息をつく事になる。
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