第4話 オーナーの悩み
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宇宙暦722年 帝国暦413年 12月末
惑星エコニア 井上商会 オーナー室
井上オーナー
「どうしたもんかねえ......」
年末の棚卸を終え、倉庫の戸締りを終えてから、店舗3階にあるオーナー室に戻ってきた彼は、自分のデスクに座ると、ため息を漏らしながらつぶやいた。もっとも、彼の本業である商売の方は、進出の前提だった緑化事業が中止された時には、どうしたものかとも悩んだが、現在は順調だ。
彼が旨とする誠実な商売は、首都星系のような競争過多な地域ならともかく、入植開始時から文字通り市場と一緒に成長していく形になったエコニアでは、むしろ好評だった。雇用に際してもなるべくそれぞれの家庭状況に合わせて、臨機応変に変えてきた。
そのおかげで、首都星系の最低賃金と比較すると申し訳ない賃金ではあったが、従業員たちも頑張ってくれたし、それがまた評判となった。
そうして少しずつ資本蓄積を行い、新設された捕虜収容所もまもなく完工する段階になった。エコニアの市場は、あとは捕虜収容所の収容人員が満員になれば、余程のことがない限り、経済成長は頭打ちになるだろう。そういう時の為に資本蓄積してきたし、小規模資本なりに人材育成も進めてきたつもりだ。
彼の計画では、資本蓄積と人材育成がある程度進んだところで、同じタナトス星系内の惑星マスジットに進出する腹積もりでいた。エコニア同様、大きな市場ではない。だからこそ、誠実に商売すれば、一定の評判を得られ、地域に必要とされるであろうと見込んでいた。
その際に任せようと見込んで育てていたのが、トーマス・ミラーだった。
自分に似て誠実であり、後輩たちの面倒見も良かった。半ば失敗しても構わないと思って任せた収容所内の売店も、戦争相手国の捕虜にも、見下すことなく誠実に接したトーマスの人柄もあり、年々売り上げは伸びていた。
マスジット進出の際は陣頭指揮を任せ、自分も軌道に乗るまではマスジットで後見役の真似事を行う。その後はエコニアに戻り、本店の方も任せられる人材を育てた頃合いで隠居し、あとはのんびり過ごせたら......。そんな将来を思い描いていたが、家庭の事情もあり、トーマスは軍に志願してしまった。
もし井上商会が大規模資本であり、首都星系に強いパイプでもあれば、多少は徴兵免除の働きかけも出来ただろうが、残念ながら田舎の小規模資本だ。帝国との戦線は遥か彼方ではあるが、自由惑星同盟は絶賛防衛戦を展開している。50年前のコルネリアス1世の大親征では、35人の元帥を戦死させ、何とか凌いだ。
ただ、同盟が被った損害もかなりの物で、それ以降、軍備増強に政策路線は振り切られたままだ。入植直後ということもありエコニアが属するタナトス星系では、今のところ入隊するには志願するしかない。ただ、もう少し時間がたてば、徴兵の対
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