第3話 別れ
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宇宙暦722年 帝国暦413年 9月末
惑星エコニア 捕虜収容所建設現場
カーク・ターナー
「おーい坊主、もう少しクレーンを上げてくれ」
「了解、おっちゃん」
現場監督役のおっちゃんの指示を受けて、俺は操作を任されたクレーンの操作を慎重に進める。おっちゃんが右手て停止を指示する合図を出すと同時に、クレーンの動きを止める。釣りあげられた資材を定位置に固定する捕虜を表す同じ色の作業着を着た大人たちを横目に、俺はこの2年の事を思い返していた。
井上商会の捕虜収容所への配送を担当しているのは今でも変わらないが、今では捕虜収容所の建設に、フルタイムではないが重機のオペレーターとして参加していたりする。きっかけは捕虜たちのまとめ役でもあるおっちゃんが年齢制限にひっかっかるが、俺が重機オペレーターの資格を持っている事を聞きつけたことだ。
おそらくネタ元は捕虜収容所内の売店の店長、トーマス・ミラーだろう。ただ、彼は善良な性格だし、俺の事を話したにしても、良かれと思っての事だろうから特に責めたりはしていない。
1ディナールでも稼ぎたい俺にとってはありがたい話だったが、この状況も様々な偶然が生んだ産物だった。人の縁はまず覚えてもらうことから始まるといい募っていた井上オーナーのしたり顔が、少しうざかったが、彼も人生の先輩だ。これも人生の先達の教えが正しかったという一例なのかもしれない。
そもそもの大元は、軍が少しでも軍備増強に予算を割きたかった事に始まる。収容所の第一工期以降、軍は収容所の建設自体を、技能を持った捕虜を活用する形で進めた。とはいえ、捕虜全員が建設業界の技能を持っている訳ではないし、本来なら設営部隊が捕虜になる可能性は低い。
そして叛徒とみなしている以上、同盟語を必修科目にもしていなかったので、通信教育で学ぶためには、まず同盟語の学習から始めなければならなかった。
そんな中で、白羽の矢が立ったのが俺だった。重機オペレーター資格の法定年齢である15歳に達していなかったのも、むしろプラスに働いた。というのも法定年齢に達していれば、最低賃金に関する法律も当然適用される。そのコスト感では、捕虜の活用を前提とした予算計画では当然人件費がオーバーする訳だ。そういう状況を踏まえると法定年齢に達しておらず重機オペレーターの資格を持つ俺は、最適な人材だった。
俺としても、家計を助けるために1ディナールでも稼ぎたい背景があったので、捕虜基準とはいえ、報酬がもらえるのはありがたかった。そして、持つべきものは話の分かる上司だ。
井上オーナの計らいもあり、去年から収容所への配達は朝一で行い、重機オペレーターとして夕方まで働いてから、当初持ち帰っていた納品伝票だけでなく、夕方に確認した在庫伝票も併せて持ち帰る形にしてくれた。
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