暁 〜小説投稿サイト〜
カーク・ターナーの憂鬱
第1話 田舎も田舎
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船に乗るか、志願するかしかないのが現実なんだよなあ」

そんな結論をつぶやいた頃合いで、車はエコニアポリスのメインストリートを進み始めた。捕虜収容所がもう少し埋まるようになれば変わるのかもしれないが、ポリスというよりタウンという印象の街並みが目に入る。

しばらくすると勤め先である井上商会の看板が目に入る。ウインカーのスイッチを入れつつ減速し、店舗の脇道を通過して、店舗裏の倉庫近くに停車する。エンジンにロックをかけて伝票を片手に倉庫へ向かうと

「おう!オレンジ。お疲れさん」

「オレンジことターナー。ただいま戻りました」

明日の出荷作業をしている井上オーナーが笑顔で声をかけてきた。オーナーに伝票を渡せば、今日の仕事は終了だ。オーナーはいつも俺をオレンジと呼ぶが、それも彼の一家言によるものらしい。というのも、社会で成功する第一歩は、覚えてもらうこと!という信条があるらしく、星間国家でも珍しいオレンジの髪にエメラルド色の瞳という、自分では最近やっと見慣れ出した俺の容姿を、褒める意味で、こう呼んでくれているらしい。

「収容所がもう少し埋まってくれれば、良い商売になるんだがなあ。まあ、おいしい商売はそうは転がってないからなあ。オレンジ、訳あり品を詰めといたから、おっかさんにもって帰ってやんな」

前世で見慣れた黒髪・黒瞳のオーナーが指をさす先には、自転車の荷台にくくれる位のかごがある。

「いつもありがとうございます。母さんも喜びます」

「遠慮することはないぜ。こっちも貰う物もらってんだからよ」

そう言いながら、オーナーは倉庫の奥へ戻って行った。かごを手に取ると倉庫わきの自転車にかごを括り付け、家路につく。うちはもともと緑化事業を見越して農場をやるつもりだったので、エコニアポリスの郊外にあるが、それでも自転車で15分もかからない。

自転車を漕ぎながら、俺は井上商会を選んで正解だったと改めて思っていた。井上オーナーは、前世の記憶でよく接していた人々と、よく似た資質を持っていた。うそや駆け引きが苦手で善良なのだ。
緑化事業の停止を受けて、それを見越て入植した家族にはいろいろな補助金が付けられている。俺を雇うと人件費の補助や法人税の減免措置があるので、勤めに出ようと思った時、エコニアポリスにある6個の商会からオファーがあった。

ただ、人件費の補助や法人税の減免の話を8歳の子供でも分かるように説明してくれたのは、井上オーナーだけだったし、給与はもっと良い商会もあったが、家計を助けたいという俺の動機に対して、月給だけじゃなく、商品の中で正規ルートでは販売が難しい、いわゆる訳あり品を無料で融通する提案をくれたのは彼だけだ。

商売人としては甘いところもあるのかもしれないが、勤め先のオーナーとしては十分満足だった
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