ちいさなしまのおはなし
月夜に奔る蒼狼
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し、シードラモンの顔にぶつける。
だがそれは、シードラモンの怒りを更に助長させるだけとなった。
激昂したシードラモンは、水の中に隠していた下半身を動かし、葉っぱのような尻尾でガブモンを持ち上げるように吹っ飛ばした。
「ガブモン!!うわ……!!」
治が湖の底に消える。シードラモンが暴れたせいで引っ掻き回され、激流が出来上がった水の中で、治は身動きすら取れなかった。
「お兄ちゃん!?」
『オサム!!』
賢の悲鳴が響き渡る。パタモン、大輔とヒカリ、空とミミが心配そうに見下ろしているのも、視界に入っていなかった。
ごつごつとした石の島に叩きつけられ、全身に激痛が走っているガブモンも、賢の悲鳴で治の異変に気付く。
ざばぁ、と湖から出てきた時には、治はシードラモンの尻尾に捕らわれていた。
「治!!」
「治くん!!」
太一と空の叫び声。
シードラモンの尻尾に捕らわれると、死に絶えるまで離されない。
テントモンの説明に、賢の顔が真っ青になる。
「あ…ぼ、僕のせいだ!僕を助けようとして、お兄ちゃんが…!!」
賢の目尻に涙が浮かぶ。無力な自分が、この時ばかりは憎かった。
身体が小さなデジモン達では、シードラモンに太刀打ちできない。
せめてアグモンが、シェルモンをブッ飛ばした時のように、進化をしてくれれば。
しかしあの時は無我夢中だったアグモンも、どうやって進化したのか分からないとどうすることも出来ない。
どうしよう、どうしよう。
そうこうしているうちにも、シードラモンは治を捉えている尻尾に更に力を籠め、治の身体を絞めつけている。
ミシミシ、骨が軋む音が聞こえてくる気がした。
「うわあああああああああああああああ!!!」
より一層締め付けられた治の悲鳴が、辺り一帯に響いた。
全身に走る痛みを堪えながら、やっとこさ起き上がったガブモンの心に、絶望の火が燻る。
それはまるで、澄んだ水に一滴落とされた、黒いインクが広がっていくように。
─ふとガブモンの脳裏に過ぎったのは、優しい笑顔を見せてくれた治の姿だった。
初めて会った際、他の子ども達が混乱したり拒絶したりする中、真っ先にガブモンを、この世界を受け入れたのは治だった。
ここは自分達の世界じゃない。ガブモン達の世界で、それがこの世界の普通なんだって皆を説得してくれたお陰で、子ども達は早い段階でデジモン達と打ち解けることができた。
他者と境界線が曖昧で、異質なものを受け入れやすい、まだ小学2年生の賢や大輔やヒカリはともかく、自分というアイデンティティーが確立し始める小学3、4年生ともなれば、自我が崩壊するのを恐れて異質なものから目を逸らしたがるものだ。
現に誰よりもパソコンや携帯などのデジタル機器に触れている光子郎や、天真爛漫を
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