ちいさなしまのおはなし
月夜に奔る蒼狼
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それはまるで真上から髪を引っ張られて、放り投げられたような感覚であった。
深淵を揺蕩っていた治の意識は急浮上し、ばちっと目を覚ます。
寝る前は点いていたはずの電気がいつの間にか消えていて、微かに温まっていた車内は夜の冷たさに冷やされた鉄のせいで温度が若干下がっていた。
それを理解した途端に分かりやすく震えた身体に、腕をさすりながら立ち上がれば、他の眠っていた子ども達も何事だと動揺していた。
運転席に一番近かった治は、とりあえず電気を点けようと適当にボタンを押してみる。
数秒ほどしてパッと電気が点いたのを確認して、空は素早く電車内を見渡した。
「……大輔は?」
『ブイモンもいないわ』
1、2、3、と心の中で人数を数えていくと、1人と1匹足りないことに気付く。
太一とアグモンは外で見張りをしているから、初めから除外だ。
子ども達が起きた原因は、何処からか聞こえてきた悲鳴のせいである。
異世界に飛ばされて最初の夜に、そこら辺の地面で寝ることにならずに済んだ子ども達は、屋内と言うこともあって安心して夢の中へと旅立っていた。
浅い眠りから深い眠りへと誘われていた時に、突如として響いてきた悲鳴。
それはまるで傷ついた獣が、寄ってくる者総てを退けるような咆哮でもあり、助けを求めている哀しい叫び声のようでもあった。
──どうする?
子ども達は顔を見合わせる。
悲鳴は間違いなく外から聞こえてきたものだ。
まさかこの辺りに住む凶悪なデジモンがこちらに向かってきているのではないか、昼間クワガーモンに追いかけ回された子ども達の心に、そんな考えが浮かぶのは当然のことである。
しかしそれならば、外で見張りをしているはずの太一が、いつまでもここに駆け込んでこないのはおかしなことだ。
異変をいち早く察知して、知らせるのが見張りの役目なのに、子ども達が悲鳴を聞いてからもう数分は経っているのに、いつまでも太一が知らせに来ないのである。
危険なものではないのだろうか、それとも……知らせに来ることが、出来ないでいるのか。
頭の回転が早いが故に、そう言う結論に至ってしまった治は、子ども達が戸惑っている中真っ先に飛び出していった。
慌てて後を追うガブモンに、空とピヨモンが待ってって言って他の子ども達と一緒に、反射的に走り出す。
「太一!何処だ!?」
『アグモン!』
煌々と燃え上がる薪の前には、先程まで見張りをしていた形跡があるのに誰もいない。
さあ、と血の気が引いていく音が聞こえた治は、辺りを見渡しながら親友の名を叫んだ。
隣に立ったガブモンも、焦ったようにアグモンを呼んだ。
『ガ、ガブモ〜ン!こっちだよぉ!』
『!アグモン!』
そして聞こえてきた、アグモンの呑気な、しかし少々
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