第五十九話
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なると思うんだけどなぁ」
自分の胸に手を当ててじっと何かを考えている幸村君の背を、私は思いきり叩いた。
「家中が割れてるってことはさ、幸村君なら出来ると信じて後押ししてくれる人達がいるってことでしょ。
信玄公もその一人だし、佐助だってそう。あとは幸村君が自分を信じて立ち上がれればいいのよ。
……ちょっとくらい失敗したっていいじゃない。それをフォローする為に家臣ってのはいるんだから。
取り返しのつかない失敗さえしなけりゃいいのよ。だから、心が告げるままに行動してみたら?」
私にも見えないほどに俯いて拳を握り締めた幸村君は、ぐっと顔を上げて私を見た。
その顔は先程までの情けないほどに暗い顔つきではなく、しっかりと腹を括った男の顔だった。
いい顔するじゃん、幸村君。これで、もうこの子は大丈夫かな。
「某を信じてくれた御屋形様や佐助、それに武田の者達にも、立ち止まっているわけにはいかんな。
……小夜殿、貴殿のお陰でこの幸村、心が晴れ申した」
この言葉は信じても良さそう。だってさ、さっきと比べたら別人のようだもん。
少し前までは鬱病で自殺するんじゃないのかと思うくらいに暗かったのに、今じゃそんな翳りがないしね。
でもまぁ、完全とは言えなさそうだけど。この子も結構真面目で、一度悩むとドツボに嵌るタイプだからねぇ……。
「小夜殿」
突然、幸村君がしてきた触れるだけの優しい口付けに、私は不覚にも固まってしまった。
まさか幸村がこんなことするとは思ってもいなかった……つか、誰が予想するか。
女を見りゃ破廉恥だって叫ぶこの子がこんなことするなんて。
「某は小夜殿をお慕いしておりまする……。だが、今の某は小夜殿にふさわしい男だとは言えぬ。
いずれ、小夜殿にふさわしいほどの男になって現れるゆえ、その時は……攫っても宜しいか」
さ、攫っても……って、な、何て事を言ってんの、この子は。そんな優しい顔して微笑まないでよ、意識するから!
っていうか、十二も下の子相手に犯罪でしょ? 小学六年生の頃に生まれた計算だもん。
私が二十歳で幸村君が八歳だもん、ないない!絶対にない! つか、ときめくな! 私!!
「……返事はまた、いずれ」
軽くまた口付けをされて、固まりながらも館の中に入っていってしまった幸村君をぼんやりと見送った。
かなり顔が赤くなってるのも分かるし、お供の連中が心配そうに私に話しかけてくれてんのも分かってる。
けど、それに対応出来るだけの力なんか無い。
幸村君にあんなことされちゃって……ど、どうしよう、私……。
「は、破廉恥でござる……」
ようやく私の口から出た言葉が、その一言だった。
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