第五十九話
[1/3]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
ようやく躑躅ヶ崎館に到着した頃には、既に黒い手は消えて半壊した館だけが残っていた。
中では怪我をしていない人間が負傷者の救護を行っていて、とりあえず死者や行方不明者は出ていないのだとか。
状況を聞けば怪我人だけで連れ去られた者は誰もいないらしい。ちなみに幸村君も臥せっている信玄公も無事だそうです。
とりあえず被害が建物だけで良かった、と言いたいところなんだけど……
「……何の目的であの手が現れたんだろう」
そこがはっきりとしない。例の連れ去り事件を躑躅ヶ崎館で、っていうのなら話は分かる。
だけど実際は誰も連れ去られてはいないし、死人が出たわけでもない。
考えられるのは、黒い手が武田を挑発した、ということだけど、挑発する意図が分からない。
だってさ、この状況で武田と争って何の意味があるの。いくら後継者問題で揺らいでるとはいえ、叩き潰すくらいの力は武田にだってあるわけだし。
とりあえず館を離れて辺りをぐるりと回ってみる。
何か手がかりらしきものが見つかるんじゃないのかなと思ったけれど、特にこれといって何かがあるわけでもなかった。
織田の手の者は見当たらない。ということは軍を率いて現れた、というわけではないということだろう。
目立たないくらいの少人数、もしくは単独犯……そう予測出来る。
「手がかりなしかぁ……何か情報が得られると思ったんだけどなぁ」
「どうします? 景継様」
どうするったってねぇ……このまま本能寺に向かうのもアレだし、もう少し詳しく状況も知りたいし……一旦戻るか。
「一旦館に戻ろうか。幸村君に話が聞きたい」
手がかりになるようなことが聞ければ良いんだけどねぇ〜……。
館の中は相変わらず慌しかったけれど、どうにも思った以上に建物は被害が大きかったようで、一時的にでも拠点を移す必要が出てきたとか。
上田城にしばらくは拠点を移して館を建て直す、そう幸村君が言っていた。
「どういう状況で襲われたの?」
「それが某にも良く……一応、情報を集めてはいるのでござるが、
黒い手が突然地面から現れて叩き潰すようにして屋敷を襲った、と見たものは一様にそう申しておりまする。
某が槍を持って外へ飛び出した頃には黒い手が消える直前でありましたゆえ」
「あの手を操ってた人とかはいなかった? 宣戦布告とか、そういうのは?」
「それも特には……」
とすればますます妙だ。信玄公も幸村君も無傷でいる。
宣戦布告も何もないとすれば、どうして襲う必要があったのだろうか。全く以って理由が分からない。
そうなると、やっぱりこれ以上は甲斐で情報が得られそうにもないや。ここは御暇して、本能寺に向かおう。
「幸村君、こういう
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ