暁 〜小説投稿サイト〜
或る皇国将校の回想録
第五部〈皇国〉軍の矜持
第八十一話 六芒郭顛末(下)
[6/8]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
だいいが希望を煽る観測気球を流した場合、それを否定した者への怒りはすさまじいものだ。ちなみにそれで最も手痛い目に遭ったのは六芒郭建造に携わった官吏と現場の対応に当った龍州警務局の者たちだ。
「‥‥成程な。そりゃ軍監本部も東海艦隊も動かないとならんか」
 噂とはこの世で最も退治に難儀する怪物の一つだ。
「龍州の海運業の連中も動いている、ハハハ、叛徒と五将家が裏ではどう言い合ってるかは知らんが表向きは動いている訳だよ、君。
これはちょっとしたお笑いじゃないか、あるいは民草にとっての美しい物語になるかもしれんぞ」
 警備対策官が笑った。
『失礼します、あぁまた何も聞こえていませんが失礼してもよろしいでしょうか』

「坂東殿、いろいろとお話させていただきましてありがとうございます」

『いえいえ、私が話せるのは同胞達から聞いた”噂”だけです』

作戦の直前に何人かの物好きな若い天龍達が”戦争見学”を始めたのだ。とはいえ実際に前線を見学する者は少なく大抵は導術で遠見をしてあぁだこうだと””噂”をするようになった。坂東はそのような”噂話”を利益代表部の友人に”含むところなく”話したのである。 ”所属を特定できない天龍の遠見の結果”が大量に利益代表部に流れ込み、それをある程度整理して書記官と警備対策官と駐在武官がそれぞれ外務省と内務省、兵部省に報告を導術で行った。
 そして兵部省への報告を行うそれをそれぞれの軍司令部が傍受(と言うと語弊があるが波は共有されている物であった)されていたのである。
 とにもかくにも無茶なやり口であった。天龍のとりわけ人間と距離を保とうとしてた者達にとって龍州から流れ込んだ避難民達の訴えを利用して切り崩してようやく”目こぼし”された。期限付きで行えた限りなく黒に近い灰色の行動である。
「‥‥天龍と親しき方はもう船の上です。数日には皇都に戻るでしょう」
 あぁそうですそうです、と青年外務官僚はニヤリと笑った。
「もちろんこれはあくまで噂ですよ」

 坂東一ノ丞は大いに導波を波立たせて笑った。



同日 虎城 棚母沢周辺 駒州軍将校用野戦医務院
独立混成第十四聯隊聯隊長 馬道豊久大佐

 豪雨は既に三日ほど続いていた、虎城へ本格的に雨季が訪れたのである。

 馬堂家典医の上野正栄が豊久の体を触診し、溜息をついた。
「肋骨が折れてます、臓腑を傷つけてればどうなっていたやら、よくもまぁ偉くなっておいてこれだけ大立ち回りしたものですな」
 うるさいよ、やりたくなかったよ。などと文句を言った青年大佐をはいはい、といなし腫れあがった脇に軟膏を塗る。

 駒州軍最精鋭部隊の指揮官が悶絶する様には誰も注意を払わない。
「回復までは?」「おおよそ一月はみないとなりませんな」
 典医の息子である
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ