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或る皇国将校の回想録
第五部〈皇国〉軍の矜持
第八十一話 六芒郭顛末(下)
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ていないのだから。
 これまでの放蕩ぶりは指針を見失っていたからなのかもしれない。
「ですが勝ちました。例え初陣であっても、こ貴方は紛れもなく〈皇国〉軍少将になったのです。閣下」

「あぁそうか、勝ったのか俺は。そうか、これか勝利か。習熟とは幻想を捨てる事からはじまるものであるというが」
それにしたって勝っても楽になった気がせんな、と拗ねたような口調で呟いた
「勝ってもめでたしとはならないのが戦争であります」
 参謀長の事務的な返答に定康は皮肉げに唇を歪めた。
「‥‥逃れえぬとはいえ泥沼に足を踏み入れたか。
望まぬほどの戦利品を獲て、どうしてこうなったやら」
 定康の笑みはこれまでのような全てを嘲る酷薄さに逆説的な捩子くれた素直さが混ざり、独特の魅力を醸し出していた。
 あるいは護州公を深く知る者がいれば驚いたかもしれない、自身の病弱さを逆手に取り趣味に耽溺していながら誠実であった彼が毒を含んだ機知問答を聞くときの顏に少しばかり似ていたのだから。




十月十五日 午後第五刻 龍州自治領 利益代表部 特設通信室
利益代表部三等書記官 弓月葵


「報告!新城支隊、最終便が出航しました!合わせて外務省より特設通信室の解散が発令!」
 おぉ!と誰もが歓声をあげた。僕も例外ではない。たとえ木材用だったり龍州豚用だったりしようと船は船だ。

「やれやれ後は2、3日の船旅で安全な土地だ」
天領である芳州に到着すれば後は皇都までのんびりと歩けば良い。誰に追い回されることもないだろう。
「しかし東海艦隊もよくここまで尽力してくれましたね」
 真実、挙国一致といえる陸軍、水軍の将家勢力は協調し、動いていた――もっとも駒州軍を除き総力を挙げて動いたわけではないが、それも兵理の合理性の範囲内にとどめていた。
 挙国一致の友情パワーを素直に信じるには父も義兄二人(うち一人は予定だが)が要らぬ苦労を背負う様を見過ぎていた。
 父が警察制度の整備に奔走する際には五将家の妨害(人事への干渉)で一時は失脚寸前まで追い込まれた。姉の弓月紫が嫁いだ芳峰子爵が鉄鋼事業への集中投資と一部の領地の返上(売却)を行う際には悪い評判を触れ回る者がいた。そしていまもう一人の姉、弓月茜は
「西原公爵閣下の名前は重いってことさ。禁士の部隊も巻き込まれれば
西原閣下の御子がいらっしゃるのなら我も我もと下から出てくる。
そうでなくとも希望を持つものは出てくる。新城支隊に組み込まれた第二軍の残余部隊には東州と背州も少なからず居た」
 なるほど、酷い事をしたものだ、と葵は冷や汗を流す。
 誰だって人の心はある。堤に穴が開けば我らも我らもと声が上がるものだ。声を挙げねば不満は抑えられるが声があがれば話は違う。
 怒りを誘う観測気球ならま
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