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或る皇国将校の回想録
第五部〈皇国〉軍の矜持
第八十一話 六芒郭顛末(下)
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が酷く頑張ってくれたよ」
 新城は目を瞬かせた後にあぁそうか、と笑った。
「水軍か。あぁそうだな――借りを一つ返そう」
 見覚えのあるやや草臥れた細巻入れ。
「笹嶋さんのだな」「返したぞ、それではまたお会いしましょう、馬堂水軍名誉中佐殿」
「あぁ、それではまた会おう。新城水軍名誉少佐」




十月十二日 午前第十一刻 咆津市役場
護州軍副司令官 守原定康少将

「勝利をもたらしたのは全ての将兵の力だ。私はこの作戦に携わった全ての将兵を誇りに思う。我々は間違いなく勝利したのだ」
 市民たちが歓声をあげた。記者達は鉄筆を舐め、念写機を弄りまわす。
「我々は諸君らに詫びなければならない。〈皇国〉軍は一度この地を離れてしまった。
であるからこそ、我々は護州公の軍として皇主陛下の宸襟を安じ奉り御国を護るという断固たる覚悟を持ち――」


「お疲れ様です若殿」

「定康様‥‥お見事でした」
 副官の宵待が満面の笑顔を浮かべて定康に黒茶を差し出す
「ありがとう、だが酷く疲れるな。この手の事は得意ではない。
どうにも綺麗な事をいうのは気恥ずかしくてかなわん」
 参謀長の豊地大佐は苦笑を浮かべた。
「慣れですよ、若殿様」
「――しかし随分と想定から外れた。叔父上が喜ぶかどうか」

「まつりごとについては御助言できません」

「だからこそ貴様が必要なのだ。叔父上に会う前に現状で必要な物をあげておいてくれ。
あぁそれと兵を一日使って豪勢に労ってやれ。それから数週したら大規模な演習を行う」

「派手に、ですか」「吼津の民草共に舐められるわけにはいかん。兵が豪勢に振舞う様を見せ、その後、武威を見せる」
 なるほど、と豊地は顎を撫でる。
「二正面に備えた築城はもちろんですが東と南の兵の移動を円滑にするために土壌の整備も必要ですな。
若殿の仰る通りの演習は無論必要です、というより砲兵隊の拡充が必須である以上、こればかりは後備の動員では質の問題が出ますので演習を行える駐屯地の設置が必須でしょうな。
兵站としては街道の整備も喫緊の課題ですし、民生の問題も含めると橋の補強や場合によっては仮設によりさらに幅が広い橋を作る必要があるかもしれませぬ。
南方からの攻勢を妨害するために龍州軍との連携が必要であるし、伏ヶ原からの侵攻を警戒するために皇海艦隊にも伝手を作り哨戒の連携が必要です。
また、龍虎湾を利用するうえで天龍自治区の集落を通じて兵站の改善を――」
 定康の口の中に放り込まれた苦虫の数が増えてゆく。自身が言い出した事で上乗せする前からあまりに多忙な未来が確定していたのだから当然だが。
「‥‥‥暫くは身動きがとれんな」
 豊地はこの人は存外に真面目なのかもしれないな、と思った。離れるという発想を持っ
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