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或る皇国将校の回想録
第五部〈皇国〉軍の矜持
第八十一話 六芒郭顛末(下)
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かロッシナ家の使用で頭のネジが数本脱落しているからなのか、わからない。
 だがこれはもう自分が困惑すればするほど楽しまれるだけだ、と豊久は諦めた。
「分かりました、分かりましたよ、殿下がそうおっしゃるのであれば私はしっかりと責任をもって引き受けます」
 そう言いながら笑みを浮かべる。自分が笑みを浮かべる事がすなわち窮地にある事を意味するようになったのはいつからか。
 脇が酷く痛む。熱を持っているような気がする。痣になっているのか――
 その時であった。ざわめきが近づいて来る、歓声を上げる者もいる。その理由は明らかだった。
「楽しそうだな」
 新城直衛、六芒郭の守手大将、救国の英雄。だがそれ以上に古い、とても古い友人だ。
幕僚と近衛の軍装を纏った剣虎兵達を供廻りに連れている。
「よう、久しぶりだな、残念だったな。剣虎兵三個大隊を率いてここにいるぞ。
剣虎兵将校の名誉だろうな。俺は砲兵だが」
「あぁ久しいな。残念だったな、僕は一個軍に匹敵する重火力を抱えて2カ月戦ったぞ。
砲兵将校にとってはちょっとしたものだろうな」
 たがいに視線を交わし、羨むものか、と鼻を鳴らす。 

「‥‥傷を負ったのか?」
 声に柔らかな気遣いが滲んだ。
「酷く打っただけだ。血を吐いてもいないし、耳も聞こえる、地面も揺れてない」
「そうか、よかった」「何だ素直だな」
 さっと常の調子に戻り、新城はぶっきらぼうな口調で答えた。
「貴様に貸し逃げされるのは好きではない」
 なるほどそっちか、と豊久は笑った。

「――彼は?」「六芒郭を出た時点では無事だった。馬は借りたがね」
  負傷兵を担ぐためだという事はわかっている。将校がみな徒歩なのは剣虎兵くらいのものだ。
「そうか、そうか。すまなかった」「彼の運がよかっただけだ、それにひょっとしたら人物も」
 視線を彷徨わせた後に脂汗をにじませながら豊久は口を開く。
「‥‥分かってほしいがここまで運ぶためには必要だったんだ。お前には無理を言ってすまなかったが――」
 新城はずい、と前に出て旧友の弁明を遮り、視線を合わせる。
「いいか、豊久。お前との貸し借りの計上は――どちらも膨らみ過ぎた、数えるのが面倒なほどにな。僕は恨みは忘れないが、恩義も忘れるつもりはない」

 にへらと笑って旧友は言い返す。
「恩義を忘れろというほど人間は出来てないよ、つもりではなく覚えておいてくれ」
 
「今の一言で貸しが増えた」「マジかよ」
「冗談だ。それで僕たちはどうする」
 馬堂大佐は覚書を取り出して新城に渡す。
「南下してくれ」「南か」
 新城は顎を撫でる。
「あぁ虎城の裾野沿いに南へ下ってくれ。虎背川まで行けば西津閣下と水軍がどうにかする。水軍はお前さん達を歓迎するつもりのようだ、統帥部
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