ちいさなしまのおはなし
夜の静寂に
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あの日のことを、治ははっきりと覚えている。
お父さんとお母さんが離婚したのは、治が今の賢と同じ学年の時である。
元々は別の場所に住んでいたのだが、お父さんとお母さんが離婚したのをきっかけにお台場に引っ越した。
その年のお台場小学校は、怒涛の転校生ラッシュだったようで、治の他にも転校生が何人かいたのだが、治は他の転校生のようにすぐ馴染むことが出来なかった。
元々積極的とは言えない性格の治は、自分から友達の輪に入るということが出来ない。
頑張っては、みたのだ。
何度か話しかけてみようと、手を伸ばしてはみたのだ。
だがこちらを振り返るその目に見つめられると、どうしても委縮してしまうのである。
何?と、じ、と見つめてくるその目に、心の内に隠した思いを総て見透かされるようで、結局何も言えなくなってしまうのである。
何でもない、とか細い声で返して、背中を向けて逃げてしまう。
そんな治を見てクラスメートの方も気味悪がったり、近寄らなくなったりしてしまう。
治も治で、そんなクラスメートの心情を嫌でも察して、治はますます委縮してしまう。
悪循環である。
おまけに治は小学2年生とは思えないほど頭が良かった。
中学生で習うような公式もその当時で既に理解していたし、難しい漢字も一度見ただけで覚えるし、スポーツだって何をやらせても卒なく熟すのである。
教えれば何でもスポンジのようにするすると吸収してしまう治は、教師からは大変可愛がられていた。
勉強もスポーツも万能、先生の言うこともよく聞く、所謂“優等生”。
まだまだやんちゃ盛りで手がかかる子がクラスに溢れている中で、治のような子は教師にとって有難かった。
だが子どもと言うのは単純で、純粋で、残酷である。
勉強もスポーツもできる子、というのはどちらか一方しか出来ない子、またはどちらも劣っている子にとっては疎ましい存在である。
先生の言うことをよく聞くというのも、先生に取り入って“お気に入り”にしてもらおうと思っているのだと実しやかに陰口を叩く。
結果的に、クラスの子達は治を遠ざけるようになってしまった。
それだけならまだよかった。
治が大人しいのをいいことに、気が強い男子や勉学にコンプレックスのある男子が、治を虐めだしたのである。
筆箱や上履きを隠されるのは日常茶飯事、教科書を捨てられ、体操服に落書きされ、治の机を廊下の外に出したり、1番酷かったのはそこら辺で咲いていた、枯れかけた花を生けた花瓶を机に置かれたことだった。
それがどういう意味なのか、賢い治は勿論知っていた。
それでも、治はお父さんに相談することは出来なかった。
お母さんと離婚したばかりで、幼い治を育てるだけでなく、お母さんについていった賢の養育費も稼がなければならず、夜遅くまで働
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