波動篇
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常勝の天才と謳われた獅子帝ラインハルトが初めて完膚なきまでの大敗を喫したのは、太陽系外縁部の艦隊戦においてであった。
地球教の本拠地にして聖地、そして人類の発祥した惑星、地球。その地下深くに地球教が艦隊を隠匿しているとの情報がもたらされ、ローエングラム朝銀河帝国は直ちにワーレン上級大将の艦隊を派遣した。ところが、ワーレン艦隊は地球近傍に到達したとの通信を最後に、一切の通信を絶ってしまった。まさか歴戦の勇将ワーレンの率いる艦隊が全滅したとはにわかに信じがたかったが、そのまま放置するわけにもいかず、ラインハルトは持ち前の果断さを発揮して地球への大親征を決意したのである。
地球の属する太陽系の外縁部に到達した帝国軍艦隊を待ち受けていたのは、少数ながら強力な艦砲を備えた地球教艦隊だった。帝国軍のアースグリム級戦艦の主砲に似たそれは、しかし兵器としての性能においては遥かに勝っていた。あのイゼルローン要塞の要塞砲トールハンマーすら話にならないほどの高出力、高威力により、帝国軍艦隊は一瞬にして壊滅状態となり、総旗艦ブリュンヒルトを守るため盾となったミュラー上級大将の乗艦パーツィバルはただ一人の乗員も脱出できないまま宇宙の粒子に還元された。
各個に脱出を図った帝国軍残存艦艇は地球教艦隊から発進した戦闘挺により次々に捕捉撃沈され、ついに全軍が機関を停止、投降信号を掲げた。皇帝ラインハルト自らも白亜の艦体の美しい総旗艦ブリュンヒルトもろとも捕虜の身となった。ここに、建国まもなくローエングラム朝銀河帝国の滅亡は決定的になったといえよう。
もちろん誇り高いラインハルトは将兵の助命と引き換えに潔く自裁を遂げるつもりであった。ところが、地球教徒はそれを許さなかった。ブリュンヒルトに接舷するや否や無力化ガスを注入し、乗員全員を行動不能にしたのである。ラインハルトは艦橋にてあえなく拘束されたが、嘔吐性ガスの作用により、漆黒と白銀の彩る彼の壮麗な軍服は吐瀉物にまみれていたという。
それからというもの、一年あまりも哀れなラインハルトは人々の前に姿を現さなかった。地球教総本部の一室のタンクベッドに冷凍睡眠させられていたのである。ようやく彼が処刑台に上がったのは、地球教がオリオン腕とサジタリウス腕をほぼ手中に収めた後のこと。筋肉の衰えにより一人で歩くこともできず、現実を受け入れることを拒んだように一言も発しない彼の姿は公開処刑の場に強制動員された観衆の内心の涙を誘った。
処刑の方法は石打ち刑と決まった。残虐非道で知られたゴールデンバウム朝にすら(あまりの非効率さ故に)採用されなかったという時代がかったものである。執行を指揮する地球教の大主教によれば、廃帝ラインハルト・フォン・ローエングラムは不敬極まることに聖なる地球の破壊を企てた大罪人であり、その
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