第三章
[8]前話
「あの子をね、ちなみに雄だったわ」
「あの子雄だったの」
「そうだったの」
「っていうか灰色の毛なのにミケ?」
「しかも雄なのに」
「雄でも灰色の毛でもね」
それでもというのだ。
「勢いで名付けて高木君もそうかって言ってくれたから」
「いいのね」
「ミケちゃんで」
「それで決まったのね」
「そうよ、だからこれでいいのよ」
こう言ってそうしてだった。
静香は驚いている他校の面々を見つつやれやれと思いそうしながら清掃活動を続けていった。そうしてだった。
ボランティアの後高木は実際に学校に戻って動物園の獣医に猫を診てもらった。すると目が少し炎症にかかっていただけで。
別に何もなくその炎症も薬ですぐに治ると言われてだった。
高木はアンドし家で飼いはじめた、そうしてだった。
クラスでよく猫の話をした、その時彼はいつも笑顔だった。
「全く、やんちゃでな」
「どんな風なの?」
「あれしろこれしろって鳴いて催促してな」
静香にそのミケのことを話した。
「しかも何かしないとな」
「あっ、噛んだり引っ掻いたりとか」
「そうしてきてな」
それでというのだ。
「大変だよ、毎日」
「そんな子なのね」
「ああ、しかもな」
「しかも?」
「俺よりも姉ちゃんに懐いてな」
「拾って獣医さんに診せたの高木君なのに」
「それなのにな」
それがというのだ。
「その恩義を忘れてな」
「お姉さんに懐いてるのね」
「仕方ない奴だよ」
全く以てというのだ。
「本当に」
「そうなのね」
「ったくよ、猫って思い通りにならないな」
高木は今度はこう言った。
「絶対にな」
「自由気ままに生きてる生きものよね」
「ああ、だからいいんだけれどな」
こう言いつつだ、高木は。
自分のスマートフォンを出してそうしてそこにある画像を観た、そこにはミケがいた。ミケは目ヤニはすっかりなくなって大きくなっていた。そうして彼の手の中で機嫌よさそうだった。静香はその画像を観てからだった。
あらためてた、クラスメイト達に言った。
「やっぱり人間中身ね」
「そうそう、人を外見で判断しちゃいけない」
「幾ら怖そうでもね」
「それで中身はわからないわよ」
「高木君を見てたらわかるわ」
今度は男のクラスメイト達と楽しく話す彼を見て言う。
「人間大事なのは何か」
「それは中身」
「それに尽きるわよ」
「そのことは覚えておかないとね」
絶対にと言ってそうしてだった。
静香は自分もと思った、人を見て自分もと。
ヤンキー君と野良猫ちゃん 完
2020・7・22
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