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猫が認めた人
第一章

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  猫が認めた人
 中原剛、黒髪をショートにしていて穏やかな顔立ちで背は一七九あるすらりとしたスタイルの彼はこの時母親の美香子にこう言っていた、父の雄吾はまだ仕事である。
「今度うちに彼女連れて来ていいかな」
「ええ、お母さんはいいわよ」
 母は笑顔で答えた、長い黒髪は五十でもまだ奇麗で顔も皺が少しあるが整ったままだ。肌も生き生きとしている。
「多分お父さんもね」
「そうだよな」
「けれどね」
 ここでだ、母は。
 自分が座っているソファーの右隣に寝ているダークブラウンの毛で腹のところが白くなっているトラ猫を見て自分の向かい側の席でお茶を飲みながら自分に話してきている息子に返した。
「問題はこの娘ね」
「チハルだよな」
 剛もこう言った、七歳の雌猫の彼女を見つつ。
「家族には優しくてもな」
「それでもね」
「何でいつも俺が連れて来る彼女には唸るんだろうな」
「威嚇してね」
「だから今度も」
「チハルが唸ったりしないか」
「それが心配だよ」
 剛にしてもというのだ。
「実は」
「そうよね」
「父さんと母さんはよくても」 
 それでもというのだ。
「チハルはな」
「どうかしらね」
「毎日家族が帰ってきたら迎えてくれる様な娘なのに」
 剛は今は母の横で気持ちよさそうに丸くなっているチハルを見て言った。
「何でなんだろうな」
「あんたが連れて来た女の子にはね」
「いつも唸るなんて」
「チハルなりにあんたの相手の人見定めてるんじゃないかしら」
「そうかな」
「あんたこれまで何人かの娘と付き合ってきたけれど」
 それでもというのだ。
「長続きはしてないでしょ」
「いつも自然消滅なんだよな」
「長くいられない娘っているのよ」
 交際してもというのだ。
「お互い問題なくても」
「皆いい娘だったけれどな」
「いい娘でもそうした娘はね」
 どうしてもというのだ。
「どうしてもね」
「チハルにしてもか」
「そう、気を置けなくて」
「チハルも唸ったのか」
「そうじゃないかしら」
「そうなんだな」
「そう思うわ、今は」
 こう息子に話した。
「お母さんは」
「そうなのかな」 
 剛は母の言葉を受けて首を少し捻って言った。
「若しかしてじゃあ今度の彼女も」
「若しもね」
「長続きしない娘ならか」
「唸るかもね」
「猫ってそういうことわかるのかな」
「色々と鋭いからね」
 こうした話をしてだった。
 剛は何はともあれ交際相手の北田陽子、波がかった長い黒髪で優しい顔立ち背は一六五程で同じ大学の同じゼミの彼女を家に招待した、だが。
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