六十四匹目
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『その身長から考えて先祖返りかな?
はー。吸血なしでもここまで大きくなるんだねー…』
『んー?私?』
『私は陰陽師さ。君に恨みはないけど、仕事なんだ。
ごめんね吸血鬼君』
『流石は不知火検校の末裔。聖剣でも滅っせないとは』
『かわいそうに、下手に力があるから苦しむんだね』
『一思いに殺ってあげよう』
『君の来世が人外じゃないことを願っているよ』
「うあああああああああああああぁぁぁ!!!!」
叫び声を上げ、シラヌイが飛び起きる。
その手は無意識に氷を纏い鋭利な爪が空を切る。
全身の毛を逆立てたシラヌイが辺りを見回す。
石で出来た壁に幾つも並ぶベッド。
空気に混じるアルコールや各種薬品の匂い。
「医務室…」
王宮の医務室にはシラヌイの他に人は居なかった。
外を見ると欠けた月が爛々と輝いていた。
浴衣のような病衣で額に滲む汗をぬぐう。
落ち着こうと、シラヌイは深呼吸をしながら目をつぶった。
闇に覆われた視界の先で、悪夢の…前世での最期の記憶がフラッシュバックする。
「っ?」
シラヌイは目の前の幻影を薙ぎ払うように氷のツメを一閃した。
「…………っ」
声にならないような、ため息のような声が漏れる。
「キャストオフ」
パキャっ! と手甲のように手を覆っていた氷のツメが砕ける。
薄い毛布の上に落ちた氷をぱっと床に落とすと、シラヌイはベッドから抜け出した。
冷えた石の床がシラヌイの足裏に冷たさを伝える。
「こういう冷たさは、好きなんだけどな」
ぺた、ぺた、と裸足と石が触れる度に微かな音がする。
「『ごめんね、吸血鬼君』。か」
記憶を取り戻してからずっと思い出せなかった、否思い出す事を拒否していた一連の記憶。
医務室の窓から射す月明かりがシラヌイを照らす。
ふとシラヌイが足元を見ればそこに影はなく、窓の形に照らされた石畳があるだけだった。
シラヌイは頭に過った仮説を確かめるために自分以上に自分を知っている遣い魔に尋ねる。
「ねぇ、ティア」
返事は自身の体の中からテレパシーで帰って来た。
『なんでしょうか? ご主人様』
「僕なんでここで寝てたの?」
『魔力切れです。今日は水浴びした日の翌日の深夜になります』
「そんなに長く寝てたの?」
『魔力を使い果たして、魂にダメージがいく所でした』
「水に……流水に長く浸かっていたから?」
『……………………………』
「ま、いいけどさ」
シラヌイは深く考えるのをやめた。
自分が吸血鬼という事実。
どうにか楽観視しようと、吸血鬼のメリットとデメリットを脳内
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