ちいさなしまのおはなし
始まりの夏
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その日、大輔の中では上機嫌と不機嫌が交互に顔を出していた。
子ども会に在籍している大人達が、夏休みに子ども達の思い出作りの一環として企画してくれたサマーキャンプが、今日から3日間の日程で行われる。
友達のお家にお泊りをしたことは何度かあったけれど、完全な外泊で、しかもお泊りするのがお家ではなくテントだと聞いた時は、興奮しすぎて壁に激突してしまったほどだ。
大好きな女の子と、尊敬している先輩も参加する、と聞いて大輔のテンションは爆上がりだった。
サマーキャンプでの必要事項が書かれたプリントを貰った時は、何度も何度もお姉ちゃんと荷物の確認をして、キャンプの日を指折り数えて楽しみにしていた。
「大輔、支度は出来た?」
いつもより少しだけ早起きした、キャンプ当日。
お姉ちゃんと何度も確認して、忘れ物はないってお姉ちゃんから太鼓判を貰ったリュックを背負い、大輔は子供部屋を出る。
その音を聞きつけて、キャンプの付添として準備をしていたお母さんが声をかけてきた。
途端に、大輔の機嫌が急降下する。
部屋を出る前にはニコニコした顔をしていたのに、お母さんの顔を見た途端に不機嫌ですという表情を隠さず、眉間に皺を寄せてお母さんから目を逸らす。
こら、ってソファーに腰かけてたお姉ちゃんが眉を顰める。
「大輔、返事しなさい」
「……できた」
お姉ちゃんに叱られた大輔は、渋々と言った様子で呟く。
カラン、と首にかけたホイッスルが傾いて音を立てた。
お母さんは、そんな大輔の様子に一瞬だけ哀しそうな顔を浮かべるも、すぐに笑顔を浮かべた。
「ん。じゃ、そろそろ出ようか。あ、出かける前にお姉ちゃんに挨拶しなさいよ?」
「………………」
お母さんの言葉に、大輔の眉間にますます皺が寄ったのを、お姉ちゃんは見逃さなかった。
「……お姉ちゃん、行ってきます」
「……行ってらっしゃい」
お姉ちゃんに挨拶をして、大輔はさっさと玄関に向かう。
でもお母さんは待ちなさい!ってちょっと強めに大輔を呼んだ。
「“こっちのお姉ちゃん”にもちゃんと挨拶して!」
「……先に行く!」
「大輔!」
ぎゅ、とショルダーハーネスを強く握った後、大輔はお母さんの言葉を無視して玄関に向かい、サッカーの走り込みでボロボロになり始めた靴をつっかけるように履いて、踵の部分を履き潰しながら逃げるように玄関を出て行った。
大輔!と背後からお母さんの怒鳴る声がしたけれど、大輔はだーっと廊下を走っていく。
エレベーターを待つ時間がもどかしかったのか、それともお母さんに追われるのが嫌だったのか、大輔は階段を使って下まで駆け下りていってしまった。
「全くもう……」
「……お母さんも、早く行けば」
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