ちいさなしまのおはなし
始まりの夏
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遠ざかっていく、階段が鳴る音。
お母さんは困ったように立ち尽くすが、そろそろ集合時間なのである。
お姉ちゃんはお母さんが準備し終えていた荷物を持って、玄関で立ちつくしているお母さんに渡した。
「……じゃあ、行ってくるわね。戸締りとか、お願いね」
「分かってるって。行ってらっしゃい」
受け取った荷物を肩にかけ、お母さんも出かけていく。
ひらひらとお姉ちゃんは手を振って、お母さんの姿がエレベーターの中へ消えていくのを見送って、玄関を閉めた。
ガチャン、と無機質な金属音が響く。チェーンをかけて、リビングへと戻る。
夏休みの特別放送で、お母さんやお父さんが小さい頃のアニメをやっていたが、何となく見る気になれなくてチャンネルを変えた。
お父さんはとっくに仕事に出かけていたし、お姉ちゃんはお昼頃には家を出る予定だ。
それまでに洗濯物を干したり、部屋の掃除をしなければならない。
「……はあ」
誰もいない空間で、彼女の溜息が虚しく響いた。
先に家を出た大輔だったが、結局お母さんに追いつかれて一緒に行くことになった。
むすりとした顔を隠さず、お母さんと微妙に距離を取ってお台場小学校へと向かう。
キャンプ場へはバスで向かうのだが、そのバスは大輔達が通うお台場小学校にまで迎えに来てくれることになっている。
時間を見ればまだ20分前だったが、既に子ども達は殆ど集まっているようだった。
集団の中に何人か見知った顔が見える。
その中の2人が、大輔に気づいておーいって手を振ってくれた。
「大輔くーん!」
「よー!間に合ったな!」
1人は大輔と同じぐらいの女の子、もう1人はその女の子に寄り添っている、爆発したように逆立った髪の男の子。
先程まで降下気味だった大輔の機嫌が、一気に上昇した。
「ヒカリちゃーん、太一さーん!」
両腕が千切れるぐらい勢いよく振りながら、大輔は2人の下へと駆け寄っていく。
2人は、同じマンションで同じ学校に通う、大輔の1番の仲良しの友達とそのお兄ちゃんでサッカー部の先輩だ。
大輔はアメリカからの帰国子女で、1年生の時に帰ってきた。
アメリカで生まれたために、ずっと英語漬けの毎日で日本語なんか全く分からなかった。
右も左も、何も分からなかった大輔の面倒を積極的に見てくれたのがヒカリちゃんだった。
席は隣ではなかったのだが、何故だかヒカリは誰よりも先に大輔に話しかけてくれて、学校の案内とかもしてくれて、先生のお話を大輔のために紙に絵を描いたりして教えてあげたり、日本語の勉強も手伝ってくれたりと、何かと世話を焼いてくれていた。
お陰でたった1年で日本語での会話に問題はなくなったが、今でも興奮すると英語が飛び出してくるし、お姉ちゃんとの会話は英語で
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