暁 〜小説投稿サイト〜
ナイン・レコード
はじまりのおはなし
[8/8]

[9] 最初 [2]次話
うで、校長先生や教頭先生に挨拶をした時も、目についていたはずなのに特に何も言われなかった。
きっととっても大切なものなんだろう、って思って、先生は問いかけた。
さっきみたいに、また元気よく捲し立てるように答えてくれるのだろうって、返事を待った。
幾ら待っていても、返事は返ってこなかった。
ぴたり、と立ち止まって、首からかけたホイッスルをじっと見下ろしている。
どうしたの?って聞くと、彼は我に返って慌てて首を振った。


いつの日のことだったのだろうか、幾ら記憶を遡っても思い出せない。
気が付いた時には、このホイッスルを首からかけていた。
とっても大切なもので、大事にしなきゃいけないものだと言うことだけは分かっていたのだけれど、どうして大切なのか、大事にしなければならないのか、その理由だけが思い出せなかった。
そもそも、これはいつ手にいれたのだろう。
お母さんやお父さんに聞いてみたけれど、曖昧に微笑まれて誤魔化された。
お姉ちゃんにも聞いてみたけれど、お姉ちゃんもさあって首を傾げるだけだった。

それだけではない。

お姉ちゃんも、買ってもらった覚えのないブレスレットをしていた。
細長い牛革が2本、緩く捩じり合って小さなパワーストーンがついているブレスレットだった。
いつ買ったんだっけ、ってお姉ちゃんは訝し気な眼差しでブレスレットを見つめるお姉ちゃんだったけれど、決して外そうとはしなかった。
彼のホイッスルと同じで、とても大切で大事にしなくてはいけないものだったからだ。
何故かは、分からない。

教室の前に着く。先生が入ってきて、って言ったら入ってきてねって言われたから、彼は大人しく待つ。
先生が先に入って、おはようございます、って彼の知らない言葉で教室の皆に挨拶した。
今日は転校生がいます、みんな仲良くしてあげてね。
クラスがざわつく。解けていたはずの緊張が、再び戻ってきた。
入ってきて、って先生が英語で言ってくれたので、彼は勢いよくドアをスライドした。
クラスの子達の視線が、一斉に彼に向けられる。
緊張して足取りがちょっとだけ覚束ないけれど、何とか先生の下まで来られた。
黒板に彼の名前が書かれる。先生が彼を紹介する。
はーい、ってクラスのみんなはお利口さんのお返事をする。
自己紹介して、って先生に促されたから、彼はお家でお姉ちゃんとお母さんと一杯練習した日本語で、大きな声で挨拶をした。

「はじめまして!もとみやだいすけです!」

ホイッスルが、からりと鳴った。





.

[9] 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ