はじまりのおはなし
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いてお姉ちゃんに泣きついたら、よしよし大丈夫よと沢山頭を撫でてくれた。
それを夜まで引き摺って、1人で寝るのが怖いと言ったら、朝まで一緒に寝てくれた。
彼の家族は、誰も彼を否定しなかったのである。
普通は莫迦なことを言うなとか、気のせいでしょうと言って、否定するものだ。
否定されていく中で、自分がおかしいのだと思い込んで、誰にも何も言わなくなる。
けれど彼の家族は、そう言った意味ではとてもおおらかだった。
まだ3歳の彼は、良くも悪くも感受性が強かった。
嬉しかったら笑って、腹が立ったら怒って、哀しかったら大声で泣いて。
自分の感情に素直な彼だから、誰も視ることのできないものを視たり、聴いたりできるのだろう、とは母親の見解である。
お姉ちゃんはそんなことはなかったけれど、まあ男の子だしこんなもんよね、と母親は至って呑気だった。
とにもかくにも、彼は運よく恵まれた境遇にあった。
からん、と首にかけたホイッスルの中に入っている合成コルクの玉が鳴る。
背中に背負ったランドセルが重たい。
お母さんに手を引かれながら小学校へ向かうのは、今日が最初で最後だ。
明日からは近所の子と一緒に通う。
彼が今まで住んでいた国とは違って、この国は子どもだけで学校に通うらしい。
1人で通うもよし、近所に住んでいる仲のいい子どもと一緒に登校してもよし。
とにかく子ども達だけで、学校に向かうのである。
通学路の途中に何人か見守ってくれる大人はいてくれるものの、今までスクールバスを使って学校に通っていたお姉ちゃんは大丈夫かなってちょっとだけ不安そうだった。
お母さんに連れられて、職員室に挨拶に行く。彼の担任は優しそうな女性の先生だった。
初めまして、って彼が知っている英語で話しかけてくれたので、ほっと胸を撫で下ろす。
今までずっと英語漬けの環境だったのに、いきなり知らない言語が溢れた空間に飛び込ませて大丈夫なのだろうか、と学年主任の先生が心配していたけれど、私に任せてくださいって彼の担任になる女性の先生がどんと胸を叩いて言ってくれたので、お母さんは安心して任せることにした。
お姉ちゃんの担任の先生も、男の先生だけどとっても優しそうだった。
じゃあね、って彼とお姉ちゃんはお母さんにバイバイして、それぞれの教室に向かう。
1年生のクラスに向かう道中、先生は彼が緊張してしまわないように、いっぱい話しかけてくれた。
アメリカでは何処に住んでいたの、とかお父さんは何のお仕事をしているの、とか。
その度に彼は元気よく答える。
「そのホイッスルは?」
彼の首からかけられている、ちょっと大きめのホイッスルについても、先生は聞いた。
学校に関係のないものは持ってきてはいけない決まりなのだが、ここの拘束はそこそこ緩いよ
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