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ナイン・レコード
はじまりのおはなし
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笑っている。
ムッとなった彼は笑うなよぉと言った。
女の子はびっくりした顔を見せて、慌てて背中を向け走って行く。
自分を見て笑ったくせに、何で逃げるんだ、と彼は女の子の背中を見送っていると、姉がねえと話しかけてきた。
何、と姉を見上げると、姉は怪訝な顔をして彼を見下ろしている。
「アンタ、今誰に話しかけてたの?」
変なことを聞いてきた。
彼が笑うなと言った時に姉が振り返った気配がしたから、姉も女の子を見ていたはずなのに。
何言ってるの、と彼は呆れた眼差しで走り去って行く女の子の背中を指差す。
「あのこ。ぼくのことみて、ずーっとわらってたんだよ」
酷いよね、と彼は頬を膨れさせて怒っている。
しかし………。

「………ふーん?」

姉は眉を顰める。彼が指を差した先を見据えながら。
女の子と、彼は言っていた。
しかしそこに女の子は見当たらない。
いるのは自分と同い年ほどの男の子がちらほら、もしくは自分より年上の女の子が数名いるのみだ。
彼は、年上の女の子を女の子とは呼ばない。
だから彼が言う女の子とは、必然的に彼と同い年の子を意味する。
しかし何処を見渡しても、彼と同い年の女の子は、何処にもいなかった。
それなのに。

「あ、こっちみてる」

なんだよもー、と彼は不機嫌になった。
しかし姉には、彼を見ている女の子は何処にも見えなかった。


こんなこともあった。
父は仕事に、姉は幼稚園に出かけていて、家には母親と彼しかいなかった時のことである。
時間帯はお昼頃。
アメリカ在住ではあるが、食べる物はもっぱら日本食である彼の家のその日のお昼は、うどんだった。
お湯を沸騰させて、鍋に入れるだけの、簡単な料理である。
箸を使って、鍋の中をかき混ぜるようにうどんをほぐす。
彼はまだ3歳だから、うどんは少し柔らかめに煮込む。
自分の分のはまた後で作るとして、コンロの火を止めて鍋の取っ手を持つ。
彼専用の、子供用の丼にうどんと汁を移す。
箸でうどんを軽く上げたり下げたりしながら、汁の温度を下げる。
白い湯気が薄くなり始めたのを見て、そろそろいいかと箸を置く。
2階で遊んでいる彼を呼んだ。
返事はない。遊びに夢中になって、母の呼ぶ声が聞こえていないのだろうか、と思いながら、母親はリビングを出た。
玄関のすぐ目の前にある階段を昇る。カーペットが敷かれ、更に母親はスリッパを履いているため、階段を昇る音は一切出ない。
ぽす、ぽす、ぽす、と階段を昇って、斜め向かいの部屋へと向かう。
扉は閉まり切っていた。白い扉。
白を基調とした壁には、前の住人の忘れ物か、それともオーナーの趣味か、小さな絵画が所々に飾られていた。
扉を叩こうと右手をあげた。

「………?」

叩こうとした手が止まる。中か
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