はじまりのおはなし
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めたりしなかった。
それどころか、ニコニコしながらいいよって言ってくれた。
値段も彼が買ってもらったゴーグルと変わらなかったので、晴れてその懐中時計はお姉ちゃんのものとなった。
彼は、とても不思議な男の子だった。
彼はまだ3歳だがアメリカで生まれ、アメリカで育った。
彼はハーフではなく純粋な日本人で、父親も母親も姉も、みんな日本人だ。
両親は日本で生まれ、日本で育ち、姉もまた日本で生まれた。
けれど彼は、彼だけはアメリカで生まれた。
だから国籍は日本とアメリカの両方を持っている。
日本では法律で二重国籍を認められていないから、22歳になるまでにどちらかの国籍を選んで、どちらかを捨てなければならない。
まあそれまでにまだ時間はたっぷりあるし、決めるのは彼である。
自分達は可能性を提示してやるだけだと、両親は思っている。
元々父親の仕事の関係でアメリカに引っ越してきたのだが、その際いつ帰るか分からないからと彼の家は日本語を一切使わなかった。
父親は仕事柄しょっちゅう単身赴任をして英語を強制的に使っていたし、母親はアグレッシブだから英語も習い事として勉強していた。
姉は彼が生まれる前、3歳の時にアメリカに来たから多少の日本語は分かるけれど、それでも英語の方が使う頻度が高い。
彼の家では完全に英語が飛び交っていたし、近所に住んでいる同い年の友達とも英語で会話をしていた。
現地のキンダガーデンにも通っている。
よって彼は日本語を一切知らずに育った。
単語として知っているものは幾つかあるが、それを文章として繋げることは出来ないのである。
しかし、そこまでは普通だ。
そこまでは、普通の子供と同じだった。
周りにいる、彼と同じくアメリカに住んでいる日本人の子供達と同じだった。
彼が不思議だと言われる所以は、そこではない。
例えば母親と姉と一緒に、買い物に出かけた時のことである。
大好きな姉と手を繋いで、お気に入りのお菓子の箱を片手に、機嫌よく鼻歌を歌っていた時のことだった。母親は精肉のコーナーにて、今日の夕飯は牛肉と豚肉どちらにしようかしらと悩んでいる。
ねーまぁだー?と買い物に飽きた彼は、先程から何度も母親を急かしているのだけれど、もうちょっと待ってとばっかりで、ここから動く様子がない。
アメリカにはタイムセールなんて、お財布に優しい便利な制度はない。
少しでも節約をするために、なるべく安いお肉を買いたいのだ。
早く帰ってお菓子食べたいのに、と彼がむくれていると、クスクスという笑い声がした。
振り返る。彼と同い年の女の子がいた。
緩くカールされた金髪と、空色の瞳。
ふわふわの白いワンピースを着ていて、とても可愛らしい子だった。
口元を手で隠して、むくれている彼を見て
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