第1部
アッサラーム〜イシス
砂漠の町
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うなったら、なけなしの演技力をフル稼働して、ユウリを説得してみよう。
心を決めた私は、半ば勢いでユウリの手を両手で包み込むように握りしめると、憂いを帯びた目で戸惑うユウリを見た。
「な、なんだいきなり」
私の突然の行動に、動揺の色を隠せないユウリ。そんなのお構いなしに、私はひたすらじっと見つめる。
「そんなことないよ。本当は皆、ユウリのことが心配なんだよ。だってユウリ、いつも無理してるもの」
「何?」
仕草は演技だが、言ってることは本心である。実際アッサラームを出てから、彼はほぼ一人で魔物を倒していた。砂漠の魔物は強く、今の私たちでは魔物に致命傷を与えることすらできない。
それだけじゃない。普段の戦闘でも、ユウリはリーダーとしての責任感故か、いつでも最前線で戦っている。それは本来、武闘家である私の役目なのだが、今の自分のレベルでは足手まといにしかならない。なので私が戦えない分、ユウリが負担になっていることに、私は多少の負い目を感じていた。
私は俯くと、小さく肩を震わせた。もはや演技ではない。弱い自分を改めて思い返し、腹立ちすら覚えていた。
「私が弱いせいでユウリにばっかり負担をかけさせちゃってるし、せめて町の中にいる間は、少しでも私たちを頼ってほしいの」
ユウリを包む手に力が入る。そして真剣な眼差しで彼を再び見据え、必死に訴えかけた。心なしか自分の目が潤んでいるのは、自分で自分のことを弱いと認めたうえで、苛立ちと悔しさが入り混じっているからだろう。
けれど、その様子が彼にどう見えたのか定かではないが、真実味を持たせたのは確かだ。棘のように私に突き刺さっていた彼の視線は、次第に憐れみと同情の色に姿を変えていく。そして、静かに口を開いた。
「……心配するのは勝手だが……。そういう顔は他の奴に見せるな」
「え?」
小さい声でそういうと、顔を背け、手を払われた。いったいどういう意味なのか尋ねようとしたら、
「そんな情けない顔でいられたら、勇者の仲間として恥ずかしいだろ」
と、きっぱりと言われた。
ああ、そういう理由か。けれど、改めて他人にそう言われると、結構ショックだ。
するとユウリは再びこちらに向き直り、
「……そんなに俺と行きたいのなら、仕方ない。特別に俺の隣で謁見する許可をやろう」
そう上から目線で言った。言い方はともかく、とりあえず説得に成功したようだ。
「いいのか? あいつ、何だかんだでお前の頭ぶつけたこと、なかったことにしそうだぞ」
「あ、うん、とりあえず、私の意見を了承してくれたのなら別にいいよ」
耳元で話すナギの言葉に、そういえばそうだったと今さらながら思い出したが、あえてそういう素振りを見せず、明るく振る舞った。
そんなこんな
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