暁 〜小説投稿サイト〜
性暴力が星を滅ぼす
最終話 文句なしの大勝利
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こちらとしては、何かさせてもらわないことには気が引けてしまう」
「そうねえ、何かあるかな」

 私は伸びをした。と、目に入った時計の針は優に日付を過ぎた新しい日の時刻を差している。もう大晦日だ。
「そうだ、日本には、その年最後の日に『紅白歌合戦』っていう、しょうもない歌番組が放送されるの。女が紅組、男が白組に分かれて、歌で勝敗を決める。バカみたいでしょ。今年は女の紅組を勝たせて。それも圧倒的な点差でね。できる?」と私は頬杖をつき、微かに笑みを浮かべながら聞いた。
「ふむ。ちょっと考えさせてくれ」と彼は言い、片手を軽くトントンとテーブル上で跳ねさせる。
「可能だ」
「なら、それでお願い」
「君にとって、勝敗は重要なのか」
「別に。まあでも、その日、日本で多くの人が見る番組だからね。それを私の意志で左右させるなんて気持ちいいかも」
「結果が君たちの社会に大変革をもたらすものでなければいいが」
「大丈夫だと思うよ。たぶんね」
「君を信じるよ。手配しよう」
「無理はしなくていいから」
「いや、約束したことだ。必ず実行する」
 猿の姿を借りた異星の民から発せられる「約束」という言葉に、妙なこそばゆさを感じた。
「そろそろ、失礼させていただく時間だ」
「もう帰っちゃうの? 私は夜通し語り明かしてもいいよ。いまさらだけど、あなたたちの星のことに興味が出てきたし」
「すまない、私ももっと君のことが知りたいのはやまやまなんだが」
「また会えるかな。今度は違う姿で」
「何事もありえないことはない、とだけ言っておこう。さらばだ、戦士よ」
「え?」
「大原礼奈、君は十年前、十四歳のときに被害に遭ってからずっと、毎日、起床してから寝るまでの間、消えない苦痛と戦っているんだろう。私には想像もつかない苦しみだ。戦い続けている者を<戦士>と呼ぶんじゃないのか」
「戦士、か。そうかもね。世界中に戦士がいるんだよ」
「これでお別れだ。ありがとう」
「よい旅を」

 猿の全身から、アニメで見るようなオーラを思わせる動きで、粒子の集まりが立ち現れると、ずっと回転していたビデオテープに戻っていく。粒子がすべて吸い込まれると同時にテープは回転を止める。猿はただの獣に戻り、何かを思い出したのか、小走りで外へ出ていった。私はコインランドリーに一人残された。夢でも見ていたのか。だが、室内は荒れ放題で、ビデオテープの入っていた紙袋は燃えカスになっており、床には漫画雑誌に挟まれていた二千円札が落ちている。それらが証拠になるわけではないが。不可思議な存在との邂逅。私は、あの者との対話を思い返しながら、乾燥機の中で温まっている衣類を取り出し、帰り支度をした。

 十年前、私は傷つけられた。いまも苦しみは続く。立ち直ったといえるのかはわからない。それでも、前を
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