第三部
主義主張 6
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しときなさい』
そうだ。
治療中の母に胸を張るため。
「何でこんな大事なことを……」
忘れていたのだろう。
瞬崩が《佐々木青獅》だった頃、《流永/りゅうえい》に弟子入りすると【死視刎神】で肉体の成長と引き換えに激痛を味わった。
そこからは只管に修練の日々。
『死にたくなければ余計なことを考えず、生き延びることだけ考えろ』
瞬崩は流永の言葉に従う。
それが正しいと思ったから。
少なくともその時は正しかった。
だが生存することのみを考え続けたせいで母への想いを忘れてしまったのだ。
日々の修業はそれほどの地獄。
そうしなければ死んでいたほどに。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
(立華の拳はぼくが忘れ、消し去ってしまったものを思い出させる)
しかしそれだけではない。
瞬崩が努力できた理由は母の為だけではなくもう一人の為でもある。
『初勝利おめでとう!』
凜音が居たから頑張れた。
子供の頃に父から家庭内暴力を受けて震えるしか出来なかった自分を庇ってくれた妹。
彼女の為に父へ逆らう。
包丁を振り回して追い出してやった。
それから二人の為に強くなろうとした青獅は数年後に魔晄が宿り魔術師となる。
離婚後の母は働き通しで痩せ細って病気になり、凜音も中学を出たら働くと言う。
(看護師の夢を諦めて家族の為に働くと言った凜音の顔は哀しかった。でもぼくが魔術師として活躍して、いっぱいお金を稼げば夢を諦めずに済むと思ったんだ)
母も働かせずに済むし莫大な治療費だって青獅が賄うことが出来る。
二人とも養ってみせると決めた彼は何度倒されても立ち上がれた。
(人との繋がりがもたらす力か)
瞬崩は転がって紫闇を見上げる。
「……立華の言ったことが理解できた。ぼくは、前へ進む度に何かを捨ててたんだ……。お陰でぼくは空っぽな人間になっちゃってたよ……」
残ったのは努力した過去。
「積み重ねたものが土壇場で支えになるって言うけどありゃ嘘だね。努力は『過去』のことだから『現在』の自分を支えてくれない」
現在を支えるもの。
それは現在自分の周りに在るもの。
(ぼくがこいつに勝てる道理なんて無い。こいつは色んなものを背負って周りに色んなものが有り、色んな人が居る。プラスと言って良いような奴だ)
対する瞬崩はゼロ。
何より大切な二つを捨てたから。
空っぽで何も無い。
立ち上がる気にもなれなかった。
(この勝負、ぼくの負けだ)
瞬崩が降参しようと口を開く
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