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性暴力が星を滅ぼす
第5話 いつか見た未来
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 きっかけはない。気づいたときには、薬の量は減り、白黒のメリーゴーラウンドにもあまり乗らなくなっていた。カウンセリングは続けていたが、正直、自分の話をするのは好きじゃなかったし、役に立っていたのかは疑問だ。担当の先生は面倒見のいいお姉さんといった感じの人で、それなりに好印象を持っていたけれど、心を開く程には自分を彼女に委ねることができなかった。先生が遠方へ転勤となったことを機にカウンセリング通いはやめた。性犯罪被害の自助グループに誘われることもあったが、行くことはなかった。だから、私は特定の誰かに助けられたり、助け合ったりといった、そういう記憶がない。もちろん、カウンセラーや声をかけてくれたグループの人、医療関係者の人たちには感謝している。それでも、申し訳ないが、人生を支えてくれたとまでは思えなかった。
 家族は私を責めることさえなかったものの、どう接していいのかわからない様子で、腫れ物として扱われる気分だった。名門を目指して勉強中の妹の世話のほうに意識を向けていたように思う。たぶん、お互いにそれで正解だった。
 振り返って考えると、心境に変化が現れ始めたのは、大学在学中にアルバイトをするようになってからだ。与えられた役割をこなすことで対価を得る。それだけのことで、日々の倦怠感が薄らいでいった。接客には抵抗があったため、初めは製造の流れ作業や書類整理などの一人で黙々と進められる仕事をした。そのうち、お客さんを前にした仕事にも挑戦するようになった。データ入力、書類照合、郵便仕分け、チラシ配り、コールセンター、レジ打ち、展示会の受付など、短期も含めていろんな職場を経験した。異性と話をすることにも慣れた。狭い空間で男性と二人きりになる職場だけは、いまも無理だが。
 カウンセリング時代から続く、内面を表現することのハードルの高さを越えられず、結局、就職活動は諦め、卒業後は派遣社員としてフルタイムで働くようになった。スキル以外の自己アピールを求められることなく、処理すべきタスクを消化し続けること。気持ちを吐き出す必要はない。それがよかった。きつい仕事でも文句を言わず頑張ってこなした。雇う側からすれば都合のいいスタッフなのかもしれない。被害に遭う前、自分の意見を主張していた面影はどこにもない。恵里が見たら驚くだろう。いまの私にはインフルエンスのかけらもない。<逆インフルエンサー>ですらない。

 ×××

「こんな話でよかった?」
 私は異星の住人に語った。モノクロームの回転木馬のこと、無力感と倦怠感のこと、ドラマのキスシーンも耐えられないこと、仕事の役割に応えること、水中に沈められる感覚のことまで話した。
「ありがとう。とても参考になる」
「そう。ならよかった」
 ここまで胸の内を曝け出したのは初めてだと思う。カウンセラーの先生にも話さなかったこ
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