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或る皇国将校の回想録
第五部〈皇国〉軍の矜持
第八十話六芒郭顛末(上)
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この男が誉められた人間ではない事はわかっている。あの姫様が丸ごと自分たちに責任を被せようとしているのだから同道したし、似たような苦労を知っている友人である。
だが今も昔もこの男は厳格でありながら上の不正を見逃してきた男だ。時には避けられなかった失点の責任を押し付けることもあった。
 だが、娶った妻は病弱であった時も見捨てなかった、薬師に見せる為に働き、節制というよりも苦行に近い禁欲的な生活を続けた。子供は流行り病で死んだ。
 鎮定軍への派遣軍団でこの男が参謀長に任ぜられたのは何処の閨閥にも媚び諂いながら属せぬ半端者であるのと同時に辺境を戦場とする苦労を知っているからだ。
 だが人望のあるアラノック中将は不審な死を遂げ、六芒郭陥落が困難なまま冬を迎えようとしている。
 今の自分達は何処の門閥にも属せぬ生贄の羊だ。
「司令官閣下!急報です!敵は本営を包囲しつつあります!要塞防衛隊もそちらに向かっております!」
「背天の業か。まぁ予想の通りだな、ドブロフスキ、頼む」
 ドブロフスキは唸った。説明は受けていたが本当にやるとは。
「我々に石神の祝福があらんことを、だな」
 ラスティニアンはにこりとも微笑まず頭を振った。
 彼らは本領から派遣された従軍司祭団主教の支持を得ていたがそれが天運の加護を得られるとは全く信じていなかった。
 あぁそういえば主教は少将待遇だったか。いや待て、そもそも大将が出張るような戦に出てくるのが主教ではないのか?
 つまり辺境領姫の排除は現場だけの判断ではないということか。いや、上と言ってもどこまで、畜生。



同日 午後第十一刻半 〈帝国〉東方辺境領鎮定軍本営大天幕
独立混成第十四聯隊 聯隊長 馬堂豊久大佐


本営への突入は馬堂豊久大佐が陣頭指揮を執った。この期に及んで高級佐官が陣頭指揮を執る軍事的な理由はない。
政治的な理由と個人的な理由を混ぜ合わせた何かが理由であった。 
「さて、これは――」
 本営の中にいたのは予想の通りの人間達だ。血を流しつつ鋭剣を手放さない参謀長、同じく流麗な構えで鋭剣を構える東方辺境領姫。そして鋭剣で切り殺された者に、皇国の弾丸をその身に受けた者。彼の周りを固めるのは杉谷中尉率いる増強小隊(新式施条銃装備)である。
 何を言うべきか考える、複雑な思いが絡み合った。
 私人としての言葉、〈皇国〉陸軍軍人としての言葉、駒州公重臣としての言葉、馬堂家の次期棟梁としての言葉、そして己の中に覆い隠し自分でも表に出すまいとした【未来の近似値】を知る者の傲慢なる野心を無遠慮に火?き棒で引っ掻きまわされた者としての言葉――どの選択においても自分にとって正解がない事はわかっていた。
 それでも、私情を飲み下そうとした。
「‥‥どうもどうも、姫殿下。半年
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