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或る皇国将校の回想録
第五部〈皇国〉軍の矜持
第八十話六芒郭顛末(上)
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指揮官としての能力の優劣ではなく、産まれと軍で得た経験の違い、もっと露骨に言えば構想力ではなく政治的な立ち位置の違いに他ならない。

 支隊本部はすでに数個大隊を潰走させ、ほんの一刻前まで〈帝国〉将校達が天幕を設置していた木立の傍で立ち話をしている。
「深追いは避けろ、兵を散らし過ぎると我々が包囲されて壊滅するぞ。
――どうにも良くないな、進みが早すぎる。快進撃は酔えぬのは、俺に戦意がないからか、それとも冷静に判断しているからなのか、どちらだろうか」」
 鉄虎大隊は剣牙虎と銃兵のみで編成された強襲部隊だ。その二個大隊をも投入した事で恐るべき戦果を上げている、既に敵の兵達は薙ぎ倒され、追い散らされている。
「どちらにせよやるべきことは変わりません、陥穽を作るのが任務である以上、進まなければなりません」
「分かっているよ、だが気に食わない。”俺は”あの姫様に三度目の夜襲を仕掛けている。一度目は敗戦の最中で私は大隊長を失い、向こうは三個大隊を失った。
二度目は龍口湾で粘られて大敗した。三度目でこれは如何にも辻津があっていない。
なぜ六芒郭の周囲では燐燭弾が放たれているのにこちらには対応しない?
なぜ兵は狼狽して引き下がるままなのか?
なぜ増援は来ない?なぜ奥へ入っても小隊規模で泥縄の戦列を組むだけなのか?
これでは鎮定軍本営と我々が見なした場所と本領軍が完全に遮断されている――大天幕を目標としたのは誤りだったか?」
偵察の戻りを待ちましょう、と大辺は指揮官を宥める。
「支隊長殿!報告です!」
「何事か」「本営にて戦闘を確認!」
「‥‥馬鹿な、新城はまだ出撃して半刻程度のはずだぞ?
いや、待て、まさか、戦闘しているのは本領と東方辺境領か?」

「おそらくは、御国の言葉は聞こえないとのことです、ですが確認する前に支隊長殿に報告せよと」

 そうかそうか、と豊久はニヤリと笑う。
「‥‥新城は――まだか。すまない、少しだけ一人にさせてくれ。
あぁ大丈夫だよ、ほんの数寸だけだ」
豊久はひらひらと手を振ると木立の奥へと入っていく。



 彼らに声が届かない程度の距離を取ると豊久は枝をへし折り――木の幹にたたきつけながら駄々子のように喚き始めた。
「クソッ!クソッ!ふざけるな!何でこんな時に畜生!
俺は皇家に連なる者でも五将家の血も汲んでないんのだぞ!
民本主義者の求める無官の産まれでもない半端者だ!
俺はただの中堅官吏だぞ!クソッ!ふざけるんじゃない!畜生!
御国と〈帝国〉の命運を揺るがす選択だと!大功だと!?
そんな責任を負えるか!俺にはそんなクソッたれの大功なぞはいらん!
嫌だ!ふざけるな!!俺は親王でも!!若殿様でも!!新城でもないんだぞ!!!
俺は!!ただの!!駒城の臣の産ま
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