第2話 コズミックリポートNo.26
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た。なぜ、私の前に現われたのかが。そういうことか。首を後ろに仰け反らせ、深いため息をつく。背後の壁に貼られた、オンラインゲームのポスターが目に入った。女性タレントがアニメ調の美青年と抱き合っている。恋愛シミュレーションゲームの広告だ。私は、そのポスターを力任せに引き剥がしたい衝動に駆られた。
「どうだろうか?」と彼は言う。黒豆みたいな目玉からは何を考えているのか読み取れない。
「銀河の果てからはるばるやってきて、私らみたいな下等動物の醜い所業を調べたいってこと? ひょっとして、夏休みの自由研究? あんた学生さん?」
私はトゲのある言い方で噛みつく。貧乏ゆすりと同じ動きで膝を上下させ、スニーカーの底で床を鳴らす。かなり嫌な女だ。異星からの来訪者に失礼な態度かもしれないが、構うものか。
「誤解をしているようだ。リサーチには違いないが、悠長なものじゃない。我々……」と話している最中、彼が突然に飛び上がった。垂直ジャンプだ。椅子の上にうまく着地できず、床に転がり落ちる。それから、甲高い奇声を発し、両手を叩いたり、コインランドリーのそこいら中を駆けずり回ったりする。狂ったのか。野生の暴れ猿は見慣れているので、恐いとは思わず、私はポカンと拍子抜けした。
×××
怒りよりも上回ったのは、無力感と倦怠感。被害者になる、それは私にとって、あらゆる強さを剥ぎ取られる感覚だった。事件前までの私は、平均より強気な少女だったと思う。おかしいと思ったときは、その場の空気に関係なく、自分の意見を口にすることも多かった。だが、リーダー気質ではなかったから、人の考えを変えようとか、先導しようとはせず、己の意志を表明するだけ。だから、遊びでもなんでも友達と何かしようとして意見が異なる際は、相手に譲った。
「もっと自分の意見を通したら? 気が弱いわけでもないのに。しっかりした考えを持ってるくせに、周囲に影響を与えないよう、セーブしてるみたい」とある友達に言われたことがある。と私を<逆インフルエンサー>とからかう、その子とは仲がよかった。いまでは疎遠になってしまったが。
将来に不安はなかった。就きたい職業も考えておらず、根拠もないのに漠然と安心していた。大成はせずとも、打ち負かされたり、立ち上がれなくなる程に絶望することはないだろうという一種の万能感があった。それでも、どこかで自分を信用しきれないところがあったのも事実だ。事件後、それにはっきりと気づいた。「自分は何も強くなかった」「正しい選択などできない」何度も声に出し、己に言い聞かせた台詞。なぜ、あのとき、言われるがまま、あいつらの車に乗ってしまったのか。
思えば、ずっと前から心の奥底で、自らの弱さを自覚していたのだろう。だから、自分の考えに人を巻き込むことに対し、無意識に抵抗を感じていたんじゃないだろう
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