第1話 映画は独りで見たい
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、猿の耳の中に吸い込まれていった。私は一連の出来事をそれこそ映画のワンシーンを見るかのごとく、微動だにせず眺めていた。
「まず、冷静に話を聞いてほしい」とそいつが言う。
「もちろん、落ち着けるわけがないことは承知している。君に信じろというほうが無理な話だろう」
私は特に慌てもせず、慎重でもない手つきで、テーブル上のスマートフォンに手を伸ばした。その行為が助けを呼ぶためか、何かを調べるためか、あるいはテーブルを挟んだ数十センチ先で喋くる動物を撮影するためかは自分でもよくわからない。
「すまない、機能を停止させてもらった。誰かを呼ばれたり、記録に残されたところで、我々に害はないが、君が困るだろうと思って。ちなみに、この話し方に違和感はないだろうか。希望があれば変えるが」
恐怖はない。パニックにも陥っていない。だが、室内に異常が現れてから胸の鼓動は高鳴っている。理解の追いつかない事態が続き、しまいには猿が人の言葉を操っている。なんだ、これは。
「科学がどんなに進歩しても心を読むことはできない。こちらの勝手な都合で申し訳ないが、君の表情から、このまま話を続けても問題ないと判断させてもらうことにするよ」
「あの、えっと、帰っていいですか?」
尋常ならざる存在を前にして、私はこう口にした。それが本心だった。
「なるほど……」と猿は私を見つめながら独り言のように漏らした。それから「どうしたものか」と呟いた。
「下調べはしてきたが、私にとってもファーストコンタクトだからね。まず、これはわかってほしい。君に危害は加えない。次に、この機会は君にも得があるはずだ。そして、この状況について、これから説明をする。だから、話を聞いてくれないか」
本当にわけがわからない。現実であってほしくない。いっそ、私の頭が狂っていたほうがマシだ。現実にこんなことが起きうるとしても、私の人生ではごめんだ。椅子から立ち上がろうとするが、腰が抜けたような感覚で体が持ち上がらない。力めば何とかなりそうだが、体にまとわりつく倦怠感がそれを拒む。もうどうでもいい。
「あなたはオスなんですか?」
最初の質問がそれなのかと、言った矢先に苦笑した。気づくと、動悸は収まっていた。
「ふむ、それを含めて話そう」
猿は説明を始めた。やつが言うには、地球より遥か遠く、単純に距離だけの問題ではないらしい、私たちには理解が及ばない場所の星に住んでいるという。水や空気や動植物のいる星には違いないようで、彼ら自身の故郷では地球人と同じく肉体を持っているそうだ。なんらかの装置を使い、あの粒子のオーロラ状の形態で地球へやってきたと言った。技術的なことは教えてくれなかったし、こちらも特に質問しなかった。一つだけ、なぜビデオテープから現れたのかは聞いてみたところ、どうも磁気テープが伝
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