第1話 映画は独りで見たい
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その直後、紙袋は燃え上がり、瞬時に炭と化した。中にあったものが床に散らばる。ラベルの貼られていないビデオテープだ。五、六本のテープはそれぞれがキュルキュルと音を立て、自ら巻き戻り始める。非現実。ありえないことが起きている。だが、それもあくまで、現実に存在する物の非現実な動きにすぎない。そのあとに生じたことは存在自体がありえなかった。最後のテープが巻き戻ったとき、それは出現した。
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映画を見るのが好きだった。ライブハウスやカフェに比べると、映画館では女一人でも、声をかけられることが少ない。最初はリラックスして過ごせる場所として通い始めたが、映画自体も好きになり、恋愛映画以外はジャンルを問わず見るようになった。ただ、ホラーはいまでも女の一人客は珍しいようで、たまに奇異の視線を感じることはあるが。性別に関わらず、隣にはなるべく人がいないほうが安心できるから、基本的には空いてそうな時間帯で見ている。とはいえ、私の住む地方都市では、映画館が満席になることは稀だ。一度、法事で東京へ行った際、新宿の劇場で鑑賞したことがあり、平日のレイトショーだというのに、ほぼ満席だったのを驚いたことがある。私には閑散とした空間こそが心に優しい。
最近のアクションやホラーはいわゆるベッドシーンがあまり出てこないから助かる。恋愛要素がダメなわけじゃない。肉体が接触する描写が耐えられないのだ。アメコミ原作映画で、キャラクター同士が惹かれ合っても構わない。それでも、キスなどの交わりは見ていられなくなる。男全体を憎むわけじゃないが、男ばかりで画面が埋め尽くされるのも厳しいから、戦争映画も苦手だ。逆に、ことさら女の活躍を強調した作品も、かえって意識してしまい、楽しめない。作り手の志には賛同する。しかし、私には受け止められるだけの余裕が持てない。家族愛を描いたものも、親子の関係なら大丈夫だが、夫婦になると拒絶反応が出てしまう。男も女も私情を抑えて、事に当たるサスペンスなんかがいい。ジョージ・クルーニーとニコール・キッドマンが出演した『ピースメーカー』はそんな映画だった。ああいうのが見たい。『マッドマックス』の最新作もよかった。他にもSFは好きだ。昔の白黒の海外ドラマ『アウター・リミッツ』はDVDで全話見た。あのドラマの第一話に、ラジオの受信機を介して、目に見える電磁波の形状をした宇宙人が登場する。いま、ビデオテープから現れたのは、それに近いやつだった。
×××
巻き戻ったビデオテープの内、一本が今度は再生をするように回転し始めた。すると、カセットの中からチラチラとした粒子の集まりに見える平べったい模様が立ち上ってくる。色はネイビーとグリーンが混じり合った感じだ。波打つオーロラさながらの動きをする、一辺が一メール程の正方形に近いそれは、数秒程度、空中を漂ったあと
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