ターン28 翠緑の谷の逆鱗
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の好奇心溢れる視線が彼女を捉える。
「オーケー糸巻さん、じゃあ頼みがあるんだけど」
「お、おう」
彼女の第六感が嫌な予感を告げていたが、自分から言い出した話なので腹を決めて腕を組む。しかし彼の口から飛び出てきた言葉は、彼女にとっては全くの予想外なものだった。
「糸巻さんの話、聞かせてよ。昔に何があったのか、どうしてデュエルポリスになったのか」
表情が固まったのが、見なくてもわかった。ふてぶてしい自信の仮面がはがれ、ほんのわずかにその奥があらわになる。辛うじて出した咳払いで沈黙を紛らわし、ゆっくりとぎこちなく笑みを浮かべる。これで、誤魔化せるだろうか。無理だろうな。
「……おいおい。思春期の男子っつったら、もっと他に考えることもあるんじゃねえのか?どうしてまた、アタシの話なんざ」
「そうねえ……」
そこで一度言葉を切り、出入り口のドアへと視線を走らせる清明。釣られて糸巻もそちらに目を向けるが、誰かがそこにいる気配はない。清明の側も同じ結論に達したらしいが、それでも声を潜めて囁いた。
「僕と同類の匂いがするから、かな」
「同類?」
オウム返しに聞く彼女に、小さく頷く。
「糸巻さんさ、散り返しの付かない致命的な何かをやったことがあるでしょ」
「……」
「無言は肯定の証、だっけ?誰が言い出したのかは知らないけど、便利な言葉よね。僕もそうよ、一生かけても償えない、2度と自分を許せない。そんな自分がのうのうと生きてることに、また勝手に腹が立っていく……違う?」
「……」
依然として何も答えないその表情の裏側で何を考えているのかは、清明にも読み取ることはできなかった。しかし確かなことは、彼女がその分析を決して否定しなかったということだ。
当事者からすればたっぷり数時間にも感じられる、しかし実際のところはせいぜい1、2分ほどだったのだろう重い沈黙。考えがまとまったのかようやく動き出した糸巻が、どっしりと椅子の背もたれに体重を預けて座り直す。じっとその姿を見つめ続けていた清明の視線に、真っ向から彼女のそれがかち合った。追い詰められた動物のような警戒と敵意の混じった色がほんのわずかにその目に浮かんでいたが、それもやがてふっと消える。そのままの姿勢で、がっくりと頭を落としてうなだれる。
「…………そう、だな。ああ、まったくその通りだよ。参ったな、こいつは鳥居や鼓にも隠してきたことだってのに」
疲れたように、しかしどこか清々しげにそう呟き、真剣な表情でまた顔を上げる。思い返すのは、13年前の記憶。誰にも語ることなく徹底的に秘してきた、決して表には出せない忌々しい過去。文字通り墓場まで持っていくつもりだった過去を、この行きずりの誰とも知らない少年に話す気になったのはなぜだろう。
隠
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